松田 勝 准教授が平成20年度日本農学進歩賞を受賞

投稿者: | 2008年11月13日

宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センターの専任教員である松田勝准教授が平成20年度日本農学進歩賞を受賞しました。受賞対象の研究は、「メダカにおける性決定遺伝子の同定と遺伝的性判別手法の開発」です。この賞は、人類と多様な生態系が永続的に共生するための基盤である農林水産業およびその関連産業の発展に資するために、農学の進歩に顕著な貢献をした者を顕彰することを趣旨としています。授賞式は、平成20年11月25日に東京大学農学部弥生講堂で行われる予定です。

賞に関する詳しい説明(財団法人農学会のHP)
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松田 勝 准教授 略歴

略歴:1997年 新潟大学大学院自然科学研究科博士後期課程修了、博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、科学技術振興事業団さきがけ研究21「認識と形成」領域専任研究員、等を経て、2007年 宇都宮大学遺伝子実験施設准教授着任、2008年 改組により宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センター専任准教授、現在に至る。

博士課程在学中より、メダカの性染色体の解析に携わる。基礎生物学研究所に移籍後、メダカ性決定遺伝子同定プロジェクトの中核として研究に携わり、2002年、ほ乳類のSRY/Sry遺伝子に次いで2番目となる性決定遺伝子DMYの同定に成功した。

 

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研究室HP

 

この賞に関する業績概要

地球温暖化や化学物質の内分泌かく乱作用は、野生動物、特に水棲動物には大きな影響を与えると予測されています。

一方、哺乳類の場合と異なり魚類を含む下等脊椎動物では、遺伝的に性別が決定されている種においても、性ステロイドホルモン処理により完全な性転換を誘導できることが示されています。例えば、XX-XY型の性決定機構を持つ種でも性転換したXX雄は正常な精子を作り、XY雌は正常な卵を産みます。このことは、XX個体とXY個体、引いては「X染色体とY染色体との間には機能的に大きな違いはない」ことを示唆しています。哺乳類と比較するとX染色体とY染色体との間の違いが少ないと考えられます。このため哺乳類以外の脊椎動物では性決定遺伝子の探索は失敗に終わっていました。

魚類を用いた実験室内の実験では、内分泌かく乱作用を有する化学物質の暴露や高温処理により完全な性転換を誘導できることが示されており、野生集団への影響が懸念されています。これら環境要因による性転換を確認するためには、その個体の遺伝的な性別を判定する必要があります。しかしながら、上述したように哺乳類以外の脊椎動物において、性決定遺伝子は全く不明であるので、野生個体の遺伝的な性別を判定することは不可能でした。

本研究では、これまで日本で行われてきた研究に基づく知見を最大限に活用して、染色体の位置情報から遺伝子をクローニングするポジショナルクローニング法により、メダカの性決定遺伝子を同定し、DMYと名付けました。また、(1) DMYの変異体を野生メダカから探索しDMYの機能不全が雌に分化すること、(2) 遺伝的雌(XX)個体にDMYを導入すると雄に分化することを示し、DMYがメダカの性決定遺伝子であることを証明しました。また、これらの結果は、「メダカの性はDMY遺伝子の有無により決まる」つまり遺伝的な性別はDMYの有無に対応することを示していました。

次に、この性決定遺伝子DMYを用いて野生メダカの遺伝的な性を判定できる方法を確立しました。ゲノム中のDMYの有無をPCR法で確実に判定するために、内部標準となる遺伝子としてDMRT1遺伝子を選びました。DMYDMRT1との両方が増幅されるようなプライマーセットを設計しました。増幅断片長は、DMRT1と比較してDMYは短いことから、DMYの方が増幅され安くなります。さらに、プライマー配列の特異性もDMYとは全て合致しますが、DMRT1とは数塩基異なっている配列としました。これら3つの工夫の結果、DMRT1よりDMYの方が増幅されやすい条件となり、ゲノムDNAの状態がよくない場合でも、確実に遺伝的な性別を判定できるようになりました。このメダカ遺伝的性判別システムを用いて、野生集団において、個々の個体の遺伝的性を調べることが可能となったのです。

これまで、メダカの性連鎖DNAマーカーを用いた場合、実験室内の特定系統の遺伝的性を判別することは可能でしたが、野生集団への応用は不可能でした。このことは性決定遺伝子の同定されている種を除いて遺伝的性別は、判定不可能であることを示しています。今回メダカの性決定遺伝子が同定でき、この遺伝子を指標として野生メダカの遺伝的性判別システムが確立したことで、自然環境下の野生集団で生じている性転換を確実に検出できるようになりました。このことにより、メダカは、野生動物の性転換を検定できる唯一の指標動物となったのです。

 

本件に関する問い合わせ先

ゲノミクス解析部門長:松田 勝(マツダ マサル)
Tel: 028-649-8155