宇都宮大学イチゴプロジェクト

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商品化を目的として作出された栽培イチゴは、育種の過程で遺伝的多様性が低下した結果、様々な環境ストレスに弱い傾向があります。宇都宮大学野生イチゴプロジェクトでは、遺伝的多様性が高く多様な環境で生息する野生イチゴを日本全国の自生地から収集し、病害虫への耐性を高める遺伝子や、未知の遺伝子の機能を最先端の手法を用いて明らかにすることで、今後のイチゴ育種や栽培技術の発展に役立てたいと考えています。将来は、様々なイチゴの野生種や突然変異系統を提供するNBRP(ナショナルバイオリソースプロジェクト)の拠点機関となることを目指しています。

プロジェクト発足の経緯

バイオサイエンス教育研究センターでは、令和2年度に植物分子農学研究部門を設置し、植物分子農学分野の強化を推進しています。これに関連して、令和4年度から栽培イチゴやその原種である野生イチゴに関する研究プロジェクトを開始しました。

イチゴセミナー
(宇都宮大学イチゴプロジェクト主催)

開催準備中

第5回イチゴセミナー(第118回C-Bioセミナー)
2024年11月18日(月)14時30分~
場所:対面(宇都宮大学峰キャンパスゲノミクス研究棟2Fセミナー室)およびオンラインのハイブリッド形式
講演者:野口 裕司 博士(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 )
タイトル:イチゴ近縁野生種を用いた育種
 栽培イチゴの遺伝的変異を拡大するために、様々な近遠野生種との交配が試みられてきたが、野生種と栽培種との間には交雑不和合性が認められている。和合性が高いと報告されているF. vescaの他に栽培種と交雑可能な野生種を探索し、着果性の良い複数の種間雑種を作出した。香気など野生種の持つ特性の直接利用のみならず、種子繁殖型品種の母本としての利用、核置換による細胞質雄性不稔系統の作出など、種間雑種系統の育種利用を検討する。また、種間雑種初の普及品種「桃薫」や八重咲き(ペタロイド型雄性不稔)品種「MS1615-01」について紹介する。

第4回イチゴセミナー(第117回C-Bioセミナー)
2024年10月21日(月)13時30分~
場所:対面(宇都宮大学峰キャンパスゲノミクス研究棟2Fセミナー室)およびオンラインのハイブリッド形式
講演者:多田 雄一 博士(東京工科大学 応用生物学部 植物工学研究室)
タイトル:イチゴ品種候補「東京幸華(とうきょうこうか)」の作出と高糖度イチゴの栽培に向けて
 イチゴの糖度を高める栽培方法の研究過程で、オリジナルのイチゴ品種の作出に取り組み、越後姫とよつぼしの交配後代から高糖度系統を選抜して「東京幸華(とうきょうこうか)」と名付けた。東京幸華は、25℃、12h明期の人工気象室内での栽培では、平均糖度17.7度を示したが、2023-2024年のハウス栽培では平均糖度11.4度であった。本セミナーでは東京幸華の育成と特性について紹介するとともに、2024年に東京工科大学に設立された「食と農の未来研究センター」における東京幸華の栽培法と品質に関する研究の取り組みについても紹介する。また、これまでに市販のイチゴ品種の水耕栽培時に添加することで糖度を高める物質の検討を行っており、それらの結果についても紹介する。

第3回イチゴセミナー(第115回C-Bioセミナー)
2024年8月9日(金)14時00分~
場所:対面(宇都宮大学峰キャンパスゲノミクス研究棟2Fセミナー室)およびオンラインのハイブリッド形式
講演者:磯部祥子 博士(東京大学大学院 農学生命科学研究科 園芸学研究室)
タイトル:NGSの技術発展とともに歩むイチゴゲノム解読の軌跡
 イチゴは他殖性かつ異質八倍体であるため、ゲノム構造が二倍体種よりも複雑であり、次世代型シーケンサー(NGS)が商用化された2010年頃にはゲノム解読が非常に難しい種であると考えられていた。しかし、その後のNGS技術開発の進展に伴い、ゲノム解読の精度が徐々に向上し、特に最近ではロングリードシーケンサーの普及により、相当な精度でゲノム解読を比較的容易に行うことが可能となった。さらに、深層学習を利用したツールにより、遺伝子予測も従来より高速に実施することができるようになった。その結果、複数の品種のゲノムや遺伝子配列を比較することができるパンゲノムの時代に突入している。本セミナーでは、NGS技術の進化に合わせてイチゴゲノム解読がどのように進んだのか、その軌跡を紹介する。

第2回イチゴセミナー(第113回C-Bioセミナー)
2024年6月28日(金)13時00分~
場所:対面(宇都宮大学峰キャンパスゲノミクス研究棟2Fセミナー室)およびオンラインのハイブリッド形式
講演者:高木宏樹 博士(石川県立大学 生産科学科 准教授)
タイトル:次世代シーケンサーを用いたFragaria属植物における遺伝解析の展開
 Fragaria属植物では、2011年に二倍体野生種であるFvescaの基準ゲノム配列がはじめて決定され、近年では、異質八倍体のオランダイチゴ (F. x ananassa) の基準ゲノム配列も決定された。それ故、様々なFragaria属植物種において次世代シーケンサー (NGS) 由来のリードを用いたリシーケンス技術によるゲノムワイドな変異箇所同定が可能になった。本セミナーでは、リシーケンスデータを用いた解析により、まず、FvescaのEMS突然変異体において標的形質の原因変異箇所を同定した手法を紹介する。また、F. x ananassaにおいて季成り性および四季成り性を決定する遺伝子領域PFRUの座乗位置を同定した手法についても紹介する。

第1回イチゴセミナー(第109回C-Bioセミナー)
2024年5月9日(木)14時00分~
場所:対面(宇都宮大学峰キャンパスゲノミクス研究棟2Fセミナー室)およびオンラインのハイブリッド形式
講演者:吉田梨乃氏(東京工業大学大学院・生命理工学院)・刑部祐里子 博士(東京工業大学・生命理工学院)
タイトル:イチゴのゲノム編集と生長様式の解明
 私たちは、植物の多種多様な生理応答を理解することを目的として、モデル植物以外の植物種における遺伝子機能解析のための技術開発を進めている。イチゴは、クローンを形成して増殖する栄養繁殖を示し、モデル植物にはない特徴をもつ。そこで、私たちはイチゴの栄養繁殖の制御に重要な役割を果たす植物ホルモンとしてストリゴラクトンに着目した。高効率CRISPR-Cas9を用い、二倍体野生イチゴFragaria vescaにおいてストリゴラクトン受容体D14遺伝子機能欠損変異体 (fvd14)を作製した。本セミナーでは、イチゴ特有のD14遺伝子機能欠損変異体の表現型について紹介する。さらに、個体レベルでの表現型解析に加え、イチゴ特有のクローン個体を含む群落でのfvd14の繁殖様式を明らかにするために、フィールドを模したバット上でイチゴを育成し、カメラを用いた繁殖の経時的解析を行った。このような実験系において新たに明らかとなったfvd14の表現型についても併せて紹介し、イチゴの栄養生長と生態について議論したい。