第100回C-Bioセミナー(植物分子農学シリーズ)
日時:2023年2月24日(金)16時~
場所:オンライン
講演者:佐藤諒一博士(理化学研究所環境資源科学研究センター)
タイトル:分子生物学のこれまでとこれから-生命デザインについて-
内容:現代社会に限らず、人の社会は他生物との関係によって(食物や資材、エネルギーなどの形で)支えられてきました。分子生物学とは生物を分子レベルで理解する学問であり、現代の社会-生物間関係の発展を支える中心的な役割を担っています。本セミナーでは、分子生物学がこれまで担ってきた社会的役を、生物学史を参考にしながら解説し、これから期待されている役割についても紹介します。また、分子生物学が将来的に果たすべき役割の一つとしての「生命デザイン」がどのようなもので、現在どのような研究がなされているのかを、私たちの研究と最新の知見の中から紹介します。
第99回C-Bioセミナー
日時:2023年2月17日(金)15時~
場所:ゲノミクス研究棟2Fセミナー室
講演者:尾形慎准教授(福島大学農学群食農学類)
タイトル:化学酵素合成法を基盤とした糖質複合分子の機能設計に関する研究
内容:糖鎖の役割は、エネルギーや構造体から細胞間認識、ウイルス感染に至るまで、実に多様である。この性質の豊かさは、糖構造の複雑性や異分子との結合による構造多様性などと密接に関わっており、その多様かつ複雑な分子を正確に再構築し、活用する試みが盛んに行われている。さらに、この構造複雑な糖鎖を単純化あるいはモデル化してもなお、天然の精密な機能を維持できないか?あるいは天然物をも超える素材を創り出すことができないか?ということについても、現在大きな関心が寄せられている。
私たちは、独自の化学酵素合成法を用いて、未利用もしくは安価な糖質素材から、分子認識素子として機能する糖鎖を改変・再構築し、さらに、合成した糖鎖を異分子などへ導入することで、様々な糖質複合分子を創り上げてきた。本セミナーでは、私たちがこれまでに合成してきた糖質複合分子をいくつか紹介し、実際に天然の分子認識能に“どこまで迫れるのか”生物機能素材としての有効性について発表する。
第98回C-Bioセミナー(植物分子農学シリーズ)
日時:2023年1月31日(火)8時40分~10時10分
場所:オンライン
講演者:内海好規博士(理化学研究所 環境資源科学研究センター)
タイトル:持続的な生産や新規な澱粉の構築を目指したキャッサバ分子育種研究
内容:キャッサバ(学名:Manihot esculenta Crantz.)は貯蔵器官として、塊根(根のイモ)を形成して、澱粉(デンプン)を蓄積します。熱帯・亜熱帯地域で広く栽培され、東南アジアでは澱粉産業を中心に地域経済を大きく担っています。昨今、気候変動適応策の観点からも注目されつつあります。一方で、キャッサバゲノムの高いヘテロ接合性は育種の障害にもなっています。私は気候変動下での持続的な生産や新たな澱粉市場の構築を目指して、育種の効率化と迅速化に向けた技術開発を進めながら、どのように塊根が形成されているのか、その分子機構の解明を目指しています。また、新規な性質をもつキャッサバ澱粉の作成を試みています。本講演ではこれまでに演者らが携わったこれら研究について紹介いたします。
第97回C-Bioセミナー(植物分子農学シリーズ)
日時:2023年1月27日(金)16時~
場所:オンライン
講演者:中野亮平博士 NAKANO, Ryohei Thomas(Max Planck Institute for Plant Breeding Research)
タイトル:マイクロバイオータとの不均一な相互作用によって規定される根の発生と免疫
内容:野外環境において植物は常に微生物に晒されており、その組織内外には複雑な微生物コミュニティ(植物マイクロバイオータ)を保持している。その中で、マイクロバイオータを構成する微生物群は根の生育や免疫を含む多様な生理機能に大きな影響を与えることがわかっている。複雑な土壌生態系の中で植物の根が健康な生育を保つために、これらのマイクロバイオータの存在下でどのようにその発生や免疫を制御しているのか、また微生物はどのようにして宿主の制御機構に干渉しているのか、これまでの研究で明らかになったその分子機構の一端を紹介する。また、その分子機構の根幹をなす根やマイクロバイオータの不均一性について、既に得られている成果をもとに今後の研究アイディアについて議論したい。
第96回C-Bioセミナー
日時:2022年12月16日(金)
場所:ゲノミクス研究棟2Fセミナー室
講演者:白澤健太博士(かずさDNA研究所 先端研究開発部)
タイトル:ゲノム科学で迫る身近なサイエンス
内容:生物の設計図であるゲノムを解析して生命を理解しようとするゲノム科学は、モデル生物に端を発し、その成果を食糧生産に応用しようとする農学においても欠かすことができない学問分野となっている。進歩を続けるゲノム科学の対象はモデル生物や農作物にとどまらず、より身近な植物にまでその応用範囲を広げている。本講演では、日本人に馴染みの深いソメイヨシノ、あちこちに生えているカタバミ、庭先に置いてある金魚鉢の中の生態系についての取り組みを紹介する。
第95回C-Bioセミナー
日時:2022年11月14日(月)
場所:オンライン
講演者:山田隼嗣博士(理化学研究所 環境資源科学研究センター)
タイトル:未来社会に向けた計測インフォマティクス
内容:微生物生態系から環境資源に至るまで、地球環境、生命は多くの物理的、化学的、生物学的要因によって動的に変動し、そのプロファイルは全体的な状態の変化を反映する。環境の健康を評価および予測するには、これらの要因を包括的に理解する「エクスポソームパラダイム」、つまりすべての物質への暴露に基づく全体論的アプローチが必要である。さらに、地球規模での人口増加に対応した持続可能な開発を考える上で、資源循環と人間社会における廃棄物のリサイクルは重要課題である。この観点から、自然環境、農業、養殖、産業における排水処理、バイオマスの分解と生分解性材料の設計は、ホットな話題である。核磁気共鳴 (NMR) は、生物、環境、材料など、分子複雑系サンプルの分析に大きな利点を有する。ここでは、溶液状態、固体状態、時間領域 NMRの理解を促進するための応用例を概説する。NMR を中心としたデータサイエンスにより、持続可能な未来に向けて自然環境と人間社会の両方でエクスポソームを評価できることを紹介する。また、工学部で蛋白質工学、修士課程で腸内細菌研究、製薬企業で医薬品情報学に出会い、その後博士課程で計測インフォマティクスの研究にて学位取得した道のりについてもふれ、日々の研究活動と将来を考える機会を提供したい。
第94回C-Bioセミナー(動物分子農学セミナー)
日時:2022年11月11日(金)
場所:ゲノミクス研究棟2Fセミナー室・オンライン
講演者:佐藤元映助教(宇都宮大学 農学部 生物資源科学科)
タイトル:反芻家畜の代替飼料およびメタン低減飼料の利用について
内容:近年、反芻家畜の生産において「人間の食糧と飼料との競合」や「ルーメン由来のメタンの排出」が問題となっている。これらの課題の解決は持続可能な畜産を実現するために必要不可欠である。本セミナーではその解決策の一つとして考えられる、代替飼料やメタン低減飼料について紹介する。
第93回C-Bioセミナー
日時:2022年10月12日(水)
場所:オンライン
講演者:八代田陽子博士(理化学研究所 環境資源科学研究センター)
タイトル:酵母をつかった創薬研究
内容:酒・パンをつくる上で私たちの食生活に欠かせない酵母は、基礎研究・応用研究を行う上で優れたモデル生物でもある。研究室における酵母の魅力の一つは、遺伝学的手法が古くから確立されており、遺伝子ライブラリー、遺伝子改変株ライブラリー等、網羅的解析ツールが整っていることである。それらのツールをつかって、遺伝子機能やタンパク質機能の解明等、さまざまな研究が展開されている。本セミナーでは、酵母の網羅的解析ツールを用いた創薬に関わる研究(薬剤の標的を同定する、有用な薬剤を探索する等)について紹介する。
第92回C-Bioセミナー(植物分子農学シリーズ)
日時:2022年7月25日(月)12時40分〜14時10分
場所:オンライン
講演者:徳永浩樹博士(理化学研究所 環境資源科学研究センター)
タイトル:熱帯作物キャッサバの生産性向上のための分子育種学的な研究および東南アジアにおけるキャッサバの病害虫防除に関する取り組みの紹介
内容:キャッサバは熱帯・亜熱帯地域で栽培される多年生の低木であり、塊根が収穫対象の作物です。栽培が容易であり不良環境でも生育可能であるため発展途上国の貧困地帯の多くで栽培されています。あまり馴染みのない作物ですが世界全体で栽培面積をみるとイモ作物類の中で最も多く栽培されていて世界8億人の主食となっています。実は日本にもタピオカ粉や加工デンプンとして多く輸入されており食料品や工業品に溶け込んでおり、日本にとっても不可欠な作物です。
講演者は昨年まで5年間東南アジア(主にベトナム)に滞在してキャッサバの病害虫防除や野外フィールド調査のプロジェクトに参加していました。現在は、最近東南アジアで被害が広がっているキャッサバモザイク病の問題に加えて、実際にキャッサバの栽培圃場を調査する中で気づいた課題を自分なりの方法で解決しようと研究をしています。本講演では、野外フィールドにおけるキャッサバの開花・分枝現象の調査、ゲノム編集技術による有用農業形質の付与、キャッサバモザイク病抵抗性品種開発に向けた技術開発、また自らの経験を交えた国際農業支援活動についてお話しします。
第91回C-Bioセミナー(植物分子農学シリーズ)
日時:2022年7月11日(月)14時20分〜15時50分
場所:オンライン
講演者:庄司翼博士(理化学研究所 環境資源科学研究センター)
タイトル:薬用資源植物と有用天然化合物
内容:植物は多種多様な生理活性を示すアルカロイドやテルペノイドなどの天然化合物を生合成・蓄積する。植物由来の天然化合物は薬、色素、香料、工業原料として利用されている。分子生物学・ゲノム科学・メタボロミクスの導入により、生合成酵素・トランスポーター・転写因子が同定され、代謝システムを植物生理の文脈で語ることを可能となった。近年も次世代シークエンス、質量分析機、ゲノム編集の導入が研究展開を加速させている。最新の研究展開と有用物質生産への応用について概説する。
第90回C-Bioセミナー(植物分子農学シリーズ)
日時:2022年6月27日(月)14時20分〜15時50分
場所:オンライン
講演者:鈴木洋弥博士(理化学研究所 環境資源科学研究センター)
タイトル:トウモロコシの屈性反応分子機構解明に向けて
内容:植物は固着生物であり基本的に移動することがないが、様々な刺激に応答して多様な運動を示している。光、重力、水分、接触などの刺激に応答して成長方向を変化させる屈性反応も植物の運動の一つである。本講義では代表的な屈性反応の内、演者が研究を進めてきたトウモロコシ地上部の光屈性と、地下部の重力屈性について紹介する。またそこから派生する農学的なアプローチの可能性についても議論したい。
第89回C-Bioセミナー(植物分子農学シリーズ)
日時:2022年6月10日(金)16時〜
場所:ゲノミクス研究棟2Fセミナー室
講演者:熊野貴宏博士(べジョー・ジャパン株式会社 代表取締役)
タイトル:種苗会社の仕事、イメージできますか?
内容:「品種にまさる技術なし」という言葉をご存知でしょうか。種苗会社が開発・供給する「タネ(品種)」無くして、美味しくて、見た目もきれいで、健康に良い野菜を楽しむことはできません。
優秀な品種は、栽培技術の向上や貯蔵・加工等の効率化においても大きな役割を果たしています。日本、ドイツ、オランダ、3つの国の種苗会社で働いた経験を持つ熊野が、自らの経験談も織り交ぜながら、種苗会社の仕事についてお話いたします。
第88回C-Bioセミナー(植物分子農学シリーズ)
日時:2022年6月6日(月)14時20分〜15時50分
場所:オンライン
講演者:戸高大輔博士(理化学研究所 環境資源科学研究センター)
タイトル:植物の環境ストレス耐性を向上させるケミカルプライミング
内容:植物は、乾燥や高温などの環境ストレスに対し優れた耐性機構を進化的に発達させてきた。この耐性機構に関する知見を応用して、分子育種学的なアプローチによってストレス耐性植物を創出するための研究が盛んに行われている。一方、最近ケミカルプライミングという手法を用いた環境ストレス耐性を向上させる研究も盛んに進められている。ケミカルプライミング法は、例えば特定の化合物で植物を予め処理しその後曝されるストレス条件下での耐性を向上させる技術である。本講義では、これまでに演者らが携わった環境ストレス応答の研究を紹介すると共に、環境ストレス耐性を向上させるケミカルプライミングに関する研究について紹介する。
第87回C-Bioセミナー(動物分子農学シリーズ)
日時:2022年5月30日(月)12時40分〜14時10分
場所:オンライン
講演者:豊島由香博士(宇都宮大学 農学部)
タイトル:タンパク質の摂取不足が動物体内のインスリン様活性に及ぼす影響
内容:近年、わが国を含めた先進諸国は飽食状態にあり、栄養素の不足は食糧不足に苦しむ発展途上国だけの問題と捉えがちである。しかしながら、先進諸国にとっても、若年者の過度な食事制限や高齢者のタンパク質やエネルギーの摂取不足など、解決すべき問題である。タンパク質は、三大栄養素の中で比較的不足しがちな栄養素である。タンパク質の摂取不足は、成長期の成長遅滞や成熟後の筋肉委縮の一因であるだけではなく、肥満やⅡ型糖尿病などの生活習慣病や脂肪肝の発症の一因になるとも考えられている。そして、これらを引き起こす代謝変動に、インスリン様成長因子(IGF-I)やインスリンといったホルモンの活性調節が重要な役割を果たすことがわかってきた。本セミナーでは、タンパク質の摂取不足がインスリン様活性に及ぼす影響について我々の研究成果を紹介する。
第86回C-Bioセミナー(植物分子農学シリーズ)
日時:2022年4月20日(水)16時00分〜
場所:オンライン
講演者:廣田隆一博士(広島大学 大学院統合生命科学研究科)
タイトル:リンのバイオテクノロジー
内容:リンは環境中では制限物質になりやすく、環境微生物の多くはリン飢餓状態にある。しかしながら、バクテリア細胞内のリン濃度は非常に高い濃度(10 mM〜)に保たれており、細胞外に対して千倍から一万倍以上の濃度勾配を形成する。これは、バクテリアが持つ優れたリン酸取り込みと蓄積能力によるものである。一方、リン肥料の原料となるリン鉱石は枯渇が懸念されており、今後増加する世界人口を支える食糧生産のために、リンの有効利用技術開発は必要不可欠である。近年、バクテリアが利用するリンはリン酸(リン酸化数:+V)だけでなく、還元型リン化合物(リン酸化数:+III以下)も利用できる能力があることが示されており、リンの生物循環は従来考えられていた様式とは大きく異なる可能性があると考えられる。
本講演では、還元型リン化合物を利用するバクテリアの代謝機能の解析と、その機能を活用したリン資源の有効活用のためのバイオテクノロジーの可能性について紹介する。
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