2025年度

第126回C-Bioセミナー

2025年7月9日水曜日8:40~10:10(オンライン)
講師:DALLAIRE Alexandra 副チームディレクター (環境資源科学研究センター理研-ケンブリッジ大学作物共生学連携研究チーム)
Endosymbiotic relationships facilitated the acquisition of novel adaptive traits that propelled evolution across the Tree of Life. The genome sequencing revolution has allowed for a detailed understanding of microbial biology, uncovering genomic changes linked to lifestyle transitions, adaptations and complex host-microbe relationships. These changes, shaped by past interactions, reveal how evolutionary pressures and molecular adaptations have influenced the diversity, structure, and regulation of microbial genomes. In return, genomic rearrangements shape the remarkable ability of microorganisms to explore new ecological niches.
In this session, we will first consider how the endosymbiosis of prokaryotes led to the emergence of cellular complexity in eukaryotes, and how serial endosymbioses gave rise to the chloroplast and diversity of the algal kingdom. We will then explore the lifestyle continuum of a diversity of prokaryotic and eukaroytic microbes, with a focus on transitions between free-living, pathogenic and mutualistic lifestyles. Lifestyle transitions are often accompanied by specific genomic changes, and we will cover knowledge gained from comparative genomics with examples from classical and emerging bacterial and fungal study systems. I will provide a perspective on emerging principles of microbial genome evolution and lifestyle-associated genomic signatures.

第125回C-Bioセミナー

2025年6月16日(月)12:40~14:10(ゲノミクス研究棟2階セミナー室)
講師:沼田圭司 教授 (理化学研究所CSRSバイオ高分子研究チーム)
構造タンパク質の可能性を追求する:材料、農業、そして水産業
世界中で地球環境の持続性が議論されており、高度な資源循環とモノづくりの低炭素化の両立によるサーキュラーエコノミーの構築が求められている。このような背景の下、私どもの研究グループは環境循環型材料として、クモ糸を構成するシルクタンパク質をはじめとした種々の構造タンパク質の生合成と材料化に関する研究を進めてきた。クモ糸は既存の構造材料では達成できない力学物性を示すと同時に、環境分解性を有し、様々な産業分野から注目されている。しかし、クモ糸を構成するシルクタンパク質を、従来型の発酵法で生産するためには多大な炭素源と窒素源が必要であり、環境低負荷とは言い難い。そこで、我々はシルクをはじめとした構造タンパク質を、光合成生物を利活用して合成する基盤技術を研究してきた。さらに、天然の牽引糸と同等のバイオ高分子材料を創出するため、牽引糸の形成機構を分子レベルで明らかにし、その知見を活かした水系の人工紡糸システムに応用した。特に、クモ糸の化学構造と構造物性をデータベース化し、データ駆動型の分子設計により耐水性に優れた人工クモ糸の開発を可能にした。これら一連の成果から、クモ糸ビッグデータを利用した高分子材料設計と光合成生物を利用した生産技術の方向性を示すことで、二酸化炭素からの生合成と二酸化炭素への精密分解が可能な環境循環型高分子材料を創出する科学基盤を構築している。本講演では、構造タンパク質の材料としての利用に加えて、農業用の窒素肥料や水産用飼料などへの応用も含めて、幅広い可能性を紹介する。

第124回C-Bioセミナー

2025年6月2日(月)14:20~15:50(ゲノミクス研究棟2階セミナー室)
講師:戸高 大輔 博士(理化学研究所環境資源科学研究センター
植物の環境ストレス耐性を向上させるエタノールプライミング
気候変動により、農作物の乾燥や高温ストレスによる被害が増えている。近年、ケミカルプライミングという手法によって植物の環境ストレス耐性を向上させる研究が盛んにおこなわれている。ケミカルプライミングは、特定の化合物で植物を予め処理することでその後曝されるストレスによる障害を軽減させる技術である。我々の研究室では、低濃度のエタノールで植物を予め処理することが環境ストレス耐性の強化を誘導することを見出した。本講義では、このエタノールによるプライミング機構の仕組みを解明する研究内容について紹介する。

第123回C-Bioセミナー

2025年6月2日(月)12:40~14:10(ゲノミクス研究棟2階セミナー室)
講師:坪山祥子 博士(宇都宮大学 農学部 研究員)
大気圧低温プラズマ技術の農業展開を目指すプラズマ種子科学

プラズマは、高エネルギー粒子を含む電離気体であり、物質の第四の状態として知られている。近年、常温・常圧下でプラズマを生成する技術の進展により、生体への応用が注目されている。特に、植物への大気圧低温プラズマ照射は、種子の発芽促進や成長促進といった有益な効果をもたらすことが報告されており、農業分野における新たな技術として期待されている。こうした背景のもと、「プラズマ農業」の実現を目指す新しい学術分野として「プラズマ種子科学」が創成された。本発表では、この新領域の全体像を概観するとともに、学理構築に向けた取り組みの一環として、発表者がこれまでに得た研究成果について紹介し、今後の展望について議論する。

第122回C-Bioセミナー(第8回イチゴセミナー)

2025年5月23日(金)14時00分~
場所:対面(宇都宮大学峰キャンパスゲノミクス研究棟2Fセミナー室)およびオンラインのハイブリッド形式
講師:内藤 健 博士(農研機構 遺伝資源研究センター)
タイトル:ナノポアシーケンサーの長さと精度、そして野生植物のストレス耐性の話
内容:まず、ナノポアシーケンサーで読めば複雑な植物ゲノムでもよく繋がるよ、という話をします。当初は「まともにデータが出ない」「配列が読めてもエラー率が高い」など散々な言われようだったナノポアですが、時間とともに扱いやすさも精度も劇的に改善しています。今やリード長は100 kbp をゆうに越え、精度も99%を超えるまでになりました。ヘテロ性の高いゲノムや同質倍数体のゲノムでも、染色体が完全に繋がることも珍しくありません。ナノポアシーケンサーはきっとイチゴ研究の役に立つと思います。
残った時間で、内藤が長年携わってきた野生植物のストレス耐性の研究の話を紹介します。耐性遺伝子の同定に繋がる比較ゲノム研究の一例として、参考にしてもらえたら幸いです。

第121回C-Bioセミナー(第7回イチゴセミナー)

2025年4月30日(水)15時30分~
場所:対面(宇都宮大学峰キャンパスゲノミクス研究棟2Fセミナー室)およびオンラインのハイブリッド形式
講師:児玉 豊 教授(宇都宮大学 バイオサイエンス教育研究センター)
タイトル:イチゴの光合成を最適化する葉緑体配置
内容:葉緑体は、光の変化に応答して細胞内配置を変えることで光合成を最適化している。たとえば葉緑体は、光の弱い曇天下では細胞表面に並ぶことで光合成を最大化し、光の強い直射日光下では細胞側面に並ぶことで光ダメージを軽減する。これらの現象は葉緑体定位運動と呼ばれ、これの調整は植物バイオマスの増加に寄与する。しかしイチゴを含めた農作物の栽培では、葉緑体定位運動が利用されていないため、植物の光合成能を十分に活用できていない。本講演では、我々が取り組んでいるイチゴの光合成の最大化を目指した葉緑体定位運動の研究に関して紹介する。また、本セミナーシリーズを主催している宇都宮大学イチゴプロジェクトについてもプロジェクト代表として紹介したい。