夏秋 知英 センター長が日本植物病理学会賞を受賞

投稿者: | 2011年5月2日

平成23年度の日本植物病理学会大会※1において、バイオサイエンス教育研究センター・センター長である夏秋知英農学部教授が日本植物病理学会賞を受賞しました。日本植物病理学会は大正6年に創設された歴史ある学会で、植物の病気に関わる基礎および応用研究が活発に行われています。日本植物病理学会賞は植物病理学上で顕著な業績や功績を挙げた研究者に贈られる賞で、今回の受賞は夏秋教授が長年研究してきた「弱毒ウイルスの分子作用機構に関する研究」に対して贈られました。

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植物でも人間と同じようにウイルス病が発生しますが、農作物のウイルス病の治療は費用の面で実用的ではありません。そのため、農作物では従来の育種によって作出された抵抗性品種(ウイルス抵抗性遺伝子を持つ品種)の利用が盛んです。例えばトマトで発生するタバコモザイクウイルスの被害は抵抗性品種の利用で防ぐことが可能です。しかし、有効なウイルス抵抗性遺伝子を持っていない植物種もあり、この場合、抵抗性品種の作出ができません。そこで夏秋教授は、新しいウイルス防除法を開発するため、府県や企業の研究機関と共同で、実用的な弱毒ウイルス(ワクチン)の開発とワクチンの分子作用機構の解明に取り組んできました。例えば、1980年代から日本デルモンテ(株)と共同研究を行い、200種類以上の植物に感染して甚大な農業被害を及ぼすキュウリモザイクウイルスに対する実用的なワクチンの開発に成功しました。また京都府との共同研究では、同ウイルスに対して別のメカニズムで作用するワクチンも開発しました。夏秋教授の研究グループでは、これらのワクチンの分子作用機構も明らかにし、世界に先駆けて研究成果を発表しました。またワクチン開発に最新の遺伝子解析技術を利用することで迅速で確実な開発法を確立し、ズッキーニやインゲンマメなどに黄斑モザイク症状を引き起こす複数のウイルスに対するワクチン開発にも成功しました。開発されたワクチンに関しては複数の特許が取得されており、一部は既に「キュービオZY-02」※2という商品名で販売されています。さらに、このようなワクチン開発の過程では、アブラナ科植物などに病気を発生させるカブモザイクウイルスの感染に重要なウイルスタンパク質の発見、ウイルスのユニークな増殖メカニズムの発見など、将来の新しいワクチン開発に繋がる重要な基礎研究も行われました。

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今回の受賞では、遺伝子解析技術の利用による実用的なワクチン開発やワクチンの分子作用機構の解明など、植物病理学の基礎研究および応用研究によって、植物ウイルス病の防除に大きく貢献したことが高く評価されました。

<補足説明>
※1 東日本大震災の影響により中止されました。
※2 微生物化学研究所(株)(本社:京都府)から微生物農薬として販売されている。(農林水産省登録第22152号)

参考文献リスト


[本件に関する問い合わせ先]

宇都宮大学・農学部・生物生産学科・植物病理学研究室 教授 Tel: 028-649-5449(研究室)
夏秋 知英(なつあき ともひで)