当センターの矢ヶ崎一三特任教授が「農林水産物とその成分の保健作用に関する研究」で平成27年度日本農学賞(日本農学会)を受賞しました。また、併せて第52回読売農学賞(読売新聞社)を受賞しました。矢ヶ崎一三特任教授(東京農工大学名誉教授)は平成26年9月より文部科学省の地域イノベーション戦略支援プログラム事業「とちぎフードイノベーション戦略推進地域」の招へい研究者として当センターに赴任し、「いちごの輸出促進を目指した機能性成分の探索・評価」などについての研究を行っています。
『日本農学会』は、農学に関する専門学協会の連合協力により、農学およびその技術の進歩発達に貢献し、総合統一された農学の発展を目指す連合体として昭和4年年(1929)に設立され、現在、50余りの学協会が所属しています。昭和5年(1930)から日本農学賞が授与されており、日本の農学関係の賞としては最も伝統と権威のある賞です。
平成27年4月5日(日)に東京大学山上会館(本郷キャンパス内)において、授賞式および受賞者講演会が開催されます。(参考ウェブサイト:日本農学会[ http://www.ajass.jp/ceremony.html])
【研究概要】題目:農林水産物とその成分の保健作用に関する研究
本研究は、食品栄養生理化学的観点から農林水産物の保健作用について大きく3つのテーマを扱っています。それは(1)他の疾患に付随して発症する内因性脂質異常症の軽減作用とその機構に関する研究、(2)日本人の死因の第一位であるがんの増殖、浸潤、転移抑制作用とその機構に関する研究、(3)世界的に増加している2型糖尿病の予防・軽減作用とその機構に関する研究です。これら脂質異常症、がん、2型糖尿病はいずれも生活習慣病として知られ、今後も超高齢社会における国民医療費の増加要因と考えられています。
(1)の内因性脂質異常症については、肝癌を移植したラットが動脈硬化を起こしやすい異常な「血清リポタンパク質像」を示すことを発見し、このラットをモデルとして、農林水産物の作用と機構を検討しました。その結果、アミノ酸、キャベツ、緑茶、コーヒー、発芽玄米、リンゴポリフェノール、レスベラトロール(ブドウ成分)、リグナン、魚油などがこの異常を改善することを見出し、作用機構を明らかにしました。また、糸球体腎炎はタンパク尿症、低アルブミン血症、血清脂質異常症を起こしますが、その増悪を防ぐためには食事タンパク質摂取制限の必要があります。そこでメチオニンなどのアミノ酸を低タンパク質食へ補うことで食事アミノ酸バランスを整え、腎炎時の諸症状を改善できることをラットで見出しました。
(2)では、がんの増殖、浸潤、転移に対する農林水産物の作用をラット肝癌の培養細胞を用いて検討しました。その結果、緑茶、紅茶、カテキン、大豆イソフラボン、レスベラトロール、木質由来のリグナン、ビタミンC・E、リンゴポリフェノールなどががん細胞の増殖ないし浸潤を抑制することを明らかにしました。
(3)2型糖尿病について、ラット筋細胞を用いて、ブドウ糖の取り込み能検定系を構築し、農林水産物の作用をスクリーニングし、さらに2型糖尿病モデルマウスでも作用を調べました。その結果、レスベラトロール、アスパラチン(ルイボス茶成分)、ピセアタンノール(ベリー類成分)などが糖代謝を改善し、これらの成分が筋収縮時にみられる「AMPK経路」を活性化させることで、2型糖尿病でみられるインスリン抵抗性の克服と血糖値正常化に寄与することを示唆しました。
[本件に関する問い合わせ先]
宇都宮大学・バイオサイエンス教育研究センター 特任教授
矢ヶ崎 一三(やがさき かずみ) Tel: 028-649-5139