シイタケの柄の着色 現象に新たな光―遺伝子解析で着色メカニズムを解明―

投稿者: | 2024年9月20日
柄が着色したキノコ       通常のキノコ     

<研究概要>

以前より菌床シイタケ栽培において、収穫時に既にきのこの柄の内部が着色(褐変)する現象が時折報告されてきました。このようなシイタケは、その鮮度には問題はないものの、柄の着色現象は消費者にとっては「傷み」のイメージにつながるため、栽培現場では解決したい課題の一つでした。
本研究の主な目的は、この着色現象を引き起こす遺伝子を特定し、それらの遺伝子がどのように働いているかを理解し、栽培現場での課題解決につなげることです。

宇都宮大学の鈴木智大 准教授、金野尚武 准教授および森産業株式会社の岩本綾らから構成される研究グループは、シイタケの中でも特に着色が顕著な菌株を対象にして、茶色く着色した部分としていない部分の遺伝子の働きの違いを調べました。

 次世代シーケンシングという最新の技術を用いて、変色部分と正常部分で働いている遺伝子の違いを解析した結果、着色に関与するいくつかの重要な酵素が見つかりました。これらの酵素の中には、チトクロムP450、チロシナーゼ、ラッカーゼといった酸化還元酵素が含まれており、これらが着色を進行させる主な原因と考えられています。さらに、これらの遺伝子の働きを確かめるために、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)という方法を使って、特定した遺伝子の発現レベルを測定しました。その結果、茶色く着色した部分でこれらの遺伝子の発現が顕著に増加していることが確認されました。

 本研究によって、シイタケの柄の着色現象に関連する遺伝子とその発現メカニズムが明らかにされたことで、今後は栽培現場で対応可能な着色防止策への応用が期待されます。また、生産者が作ったシイタケを消費者が安心して購入できる環境を整えることで、将来的には消費拡大への貢献も期待されます。

本論文は国際学術雑誌「Mycoscience」に受理され、2024年 9月20日にオンライン公開されました。

<用語説明>

  • 次世代シーケンシングは、DNAの情報を高速かつ大量に解読する技術で、医療や研究で使われ、個別化治療や遺伝子研究に役立ちます。
  • 定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR):特定のDNAを増やし、その量をリアルタイムで測定する技術です。サンプル中の特定の遺伝子や病原体の量を正確に把握できます。例えば、ウイルスの検出やがんの診断に使われます。DNAを特別な装置でコピーしながら、その増えた量を光を使ってリアルタイムで確認することで、元の量を知ることができます。
  • 酸化還元酵素: 酸化還元反応を触媒する酵素で、細胞の呼吸・発酵・生合成における物質ならびにエネルギー代謝に重要な役割を果たします。具体的には、酸素を使って他の物質を変える(酸化する)か、酸素を取り除いて他の物質を変える(還元する)役割を果たします。これらの酵素は、食べ物をエネルギーに変える過程や、体内の老廃物を分解するなど、生命維持に欠かせない多くの重要な反応に関わっています。酸化還元酵素が正常に働くことで、私たちの体は健康を保つことができます。

<論文情報>

掲載誌:Mycoscience

題名:Gene expression analysis for stem browning in the mushroom Lentinula edodes.

(日本語タイトル:シイタケの茎の褐変に関する遺伝子発現解析)

著者: Jili Zhang, Yuki Tanaka, Akiko Ono, Takumi Sato, Toshiyuki Suzuki, Saya Akimoto, Yuki Tanaka, Shoko Iwami, Aya Iwamoto, Norio Tanaka, Naotake Konno, Tomohiro Suzuki

DOI:https://doi.org/10.47371/mycosci.2024.07.003

本件に関する問い合わせ
国立大学法人 宇都宮大学 バイオサイエンス教育研究センター 准教授 鈴木 智大
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