自ら移動できない植物は光や温度などの外部環境の変化に対して、遺伝子、細胞、個体まで様々なレベルで応答します。中でも温度は、植物の光合成や代謝、成長、ストレス応答など様々な生理現象に影響を与える要因です。植物細胞内では、葉緑体をはじめとするオルガネラ(細胞小器官)が移動しながら機能を発揮することで温度変化に応答すると考えられています。温度依存的なオルガネラの挙動を顕微鏡下で観察するには、試料である植物細胞の正確な温度制御が要求されます。しかし、試料の温度は顕微鏡の照明による加熱や周囲の温度、浸漬媒体の性質など様々な影響を受けてしまうことが課題でした。緑川景子特任助教(R4.1~R5.10当時)と児玉豊教授は、顕微鏡下で温度を精密に変化させながら試料の経時的変化を観察する技術を開発しました(図1ab)。本研究成果は1月12日付でMICROSCOPYに掲載されました。
共焦点レーザー顕微鏡は生きた細胞内のオルガネラを高解像度で観察するための優れたツールですが、正確な温度管理が困難です。緑川博士らは市販の温度制御装置に取り付けるアダプターを開発し、共焦点レーザー顕微鏡下で試料温度を正確に制御することで、温度依存的なオルガネラ動態のライブ観察に成功しました。本研究ではアダプターの効果を確認するため、ゼニゴケにおけるオルガネラの形態学的変化に注目しました。その結果、過去の知見と同様に葉緑体は低温下で球形度がより高くなることが確認されました(図1c)。さらに、光依存性の形態変化が報告されていたペルオキシソームでは、光と温度の両方の制御による形態変化が誘導され、温度制御下では光依存とは異なるメカニズムで応答性を示すことが示唆されました。
温度制御下での顕微鏡観察を可能にする技術は、細胞内のタンパク質などの生体分子の挙動や細胞周期など、他の温度依存的な生物学的プロセスの理解の向上に繋がります。本研究を通して開発された成果は、植物の温度感知における分子機構の理解を深めるだけでなく、イメージング技術が関わるあらゆる分野の進展に影響を及ぼすでしょう。
論文情報
論文名:A tool for live-cell confocal imaging of temperature-dependent organelle dynamics (温度依存性のオルガネラ動態を共焦点顕微鏡でライブ観察するためのツール)
著者:Keiko Midorikawa, Yutaka Kodama
掲載誌:Microscopy
URL:https://academic.oup.com/jmicro/advance-article/doi/10.1093/jmicro/dfad064/7523754
英文概要
Intracellular organelles alter their morphology in response to ambient conditions such as temperature to optimize physiological activities in cells. Observing organelle dynamics at various temperatures deepens our understanding of cellular responses to the environment. Confocal laser microscopy is a powerful tool for live-cell imaging of fluorescently labeled organelles. However, the large contact area between the specimen and the ambient air on the microscope stage makes it difficult to maintain accurate cellular temperatures. Here, we present a method for precisely controlling cellular temperatures using a custom-made adaptor that can be installed on a commercially available temperature-controlled microscope stage. Using this adaptor, we observed temperature-dependent organelle dynamics in living plant cells; morphological changes in chloroplasts and peroxisomes were temperature dependent. This newly developed adaptor can be easily placed on a temperature-controlled stage to capture intracellular responses to temperature at unprecedentedly high resolution.
▪️本件に関する問合せ
【研究内容について】
国立大学法人 宇都宮大学 バイオサイエンス教育研究センター教授 児玉豊
TEL:028-649-5527 FAX:028-649-8651 E-mail: kodama@cc.utsunomiya-u.ac.jp
【報道対応】
国立大学法人 宇都宮大学 広報室(広報係)
TEL:028-649-5201 FAX:028-649-5026 E-mail: kkouhou@miya.jm.utsunomiya-u.ac.jp