― 植物オルガネラを簡便かつ高精度に蛍光染色できる汎用的技術が高く評価 ―
本学大学院地域創生科学研究科博士後期課程3年の市川晋太郎さんが、「植物オルガネラを染色する蛍光色素の同定に関する研究」により、2025年度日本植物バイオテクノロジー学会学生奨励賞を受賞しました。この学会は、植物組織培養、分子生物学、細胞工学など、植物バイオテクノロジーに関する基礎から応用まで幅広い分野の研究の推進と発展を目指しており、学生奨励賞は、優れた研究を行い、今後の活躍が期待される学生会員に授与されるものです。市川さんの研究は、生細胞内の植物オルガネラおよびその内部構造を、簡易な操作で高精度に蛍光染色・観察できる汎用性の高い手法を確立した点が評価されました。市川さんが所属するオルガネラ生物学研究室(PI:児玉豊教授)からの受賞は、今回で2人目となります。授賞式は、2025年9月5日~7日に神戸で開催される第42回日本植物バイオテクノロジー学会年会にて行われる予定です。

植物細胞は葉緑体や液胞など、動物細胞とは異なる特徴的なオルガネラを持ちますが、植物特有のオルガネラを可視化する蛍光色素はほとんど報告されていませんでした。市川さんらは、市販の100種類以上の蛍光色素を用い、植物オルガネラやその内部構造を染色できる蛍光色素を同定しました。その結果、これまで報告のなかった葉緑体包膜の蛍光色素染色や、青色光下での核や核小体の挙動観察、さらには細胞内に蓄積されたデンプン顆粒の定量解析など、植物細胞の構造と動態に関する新たな知見を得ることが可能になりました。
本研究で市川さんが同定した蛍光色素は、すべて生きた植物細胞で使用可能で、葉を約10分間染色することで対象の細胞内構造を観察できます。さらに、蛍光タンパク質を利用したイメージングの際に必要な形質転換を行わずに実施できるため、実験が簡便であり、形質転換が難しい農作物や非モデル植物にも適用可能です。今後、これらの技術が植物の生理学や機能解明において重要な役割を果たし、植物バイオテクノロジーの発展に貢献することでしょう。
受賞コメント
蛍光イメージングは、GFPなどの蛍光タンパク質を用いた観察が主流ですが、蛍光色素による染色観察も有効な手法の一つです。蛍光色素は幅広い植物種に適用可能であり、蛍光タンパク質遺伝子の導入が難しい農作物に対しても利用できる点が大きなメリットです。本学農学部の出身として、こうした蛍光イメージング技術を通じて、農作物研究に少しでも貢献できることを大変嬉しく感じています。