-蛍光タンパク質を利用したライブイメージングによる解明-
発表のポイント
- ヘムの代謝産物ビリルビンと結合して光るタンパク質UnaGを利用して、植物生体内におけるビリルビン分布の可視化に初めて成功した。
- ビリルビンは、葉と根の表皮細胞で、細胞内では葉緑体のストロマで顕著な局在が確認された。
- 葉緑体とペルオキシソームの間には、ヘム代謝産物の輸送経路が存在する可能性がある。
- ビリルビンの生産には、光合成による酸化ストレスの暖和以外の新たな生理機能が存在する可能性がある。
■研究概要
岡山大学学術研究院医歯薬学域の石川一也助教(研究当時:宇都宮大学同センター特任助教)と宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センターの児玉豊教授は、生きた植物細胞内におけるヘム代謝産物ビリルビンの詳細な分布を蛍光イメージングにより明らかにし、生合成や輸送経路に関する示唆を与えました。本研究成果は生細胞内の代謝産物を細胞小器官レベルで正確に可視化した数少ない例の一つであり、植物では光合成や呼吸に必須なことで知られるヘムの代謝産物に関する新たな生理機能の存在を提唱するものです。本研究成果は2月27日付で国際誌Plant and Cell Physiologyに掲載されました。
■研究背景
ヘムの代謝産物であるビリルビンは、動物では血液に含まれるヘモグロビンが分解されることで生じます。一方、植物にもヘムが存在しますが、動物とは異なる生産システムでビリルビンが生じることが分かっています(Ishikawa et al. 2023 Science Advances)(図1a)。しかし、ビリルビンが植物で果たす役割はまだ完全に解明されていません。本研究はビリルビンの生理機能の解明に向けて、植物細胞内での動態や組織レベルでの蓄積を実験植物であるシロイヌナズナやベンサミアナタバコを用いて調べました。
■研究成果
ビリルビンは光合成の場である葉緑体で生産されます。石川助教らによるこれまでの研究から、ビリルビン生産(図1a)には、強光下で過剰に生じたNADPHを消化し葉緑体の酸化ストレスを低減する効果が示されていました(Ishikawa et al. 2023 Science Advances)。本研究では植物個体内および細胞内でのビリルビンの詳細な局在を調べるため、ビリルビンと結合すると蛍光を発するタンパク質「UnaG」を発現する遺伝子組換え植物を作出しました。共焦点レーザー顕微鏡による観察の結果、ビリルビンは主にNADPHが生産される葉緑体内のストロマに局在することがわかりました(図1b)。次に個体レベルでのビリルビン分布を調べると、葉の表皮細胞の葉緑体と、根の表皮細胞のプラスチド(葉緑体前駆体)におけるビリルビンの顕著な蓄積が確認されました。
さらに石川助教らはビリルビンの細胞内輸送システムを調べるため、葉緑体のビリルビン生産を人為的に促進させて他の細胞小器官への影響を調べました。予想通り、葉緑体でのビリルビンの過剰生産によりプラスチドのビリルビン蓄積レベルが増加しましたが、それに伴いペルオキソソームのビリルビン蓄積レベルが有意に低下しました(図2)。したがってプラスチドとペルオキシソームの間にはビリルビンやその基質であるビルベルジンの輸送経路の存在が示唆されました。今後は植物におけるヘムやその代謝産物のトランスポーターの特定が課題になります。
■今後の課題
ビリルビン生産には光合成に伴って発生する活性酸素種の除去機能が示唆されている一方で、本研究では光合成とは関係のない根の伸長領域での著しい蓄積が確認されました。このことから、組織ごとにヘム代謝の役割が異なる可能性が考えられます。今後は、組織ごとのヘム代謝機能の解明が課題になります。植物の光合成効率や成長など農作物の生産性の向上にもつながるヘムとその代謝産物の生理機能の研究は、今後ますます重要になるでしょう。
■研究支援
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)「沼田オルガネラ反応クラスタープロジェクト(沼田 圭司、児玉 豊、課題番号:JPMJER1602」、文部科学省 科学研究費助成 学術変革領域研究(A)「不均一環境変動に対する植物のレジリエンスを支える多層的情報統御の分子機構」(児玉 豊、課題番号:20H05905)の支援により実施されました。
■論文情報
論文名:Bilirubin distribution in plants at the subcellular and tissue levels
(植物におけるビリルビンの細胞内および組織レベルでの分布)
著者:Kazuya Ishikawa, Yutaka Kodama
掲載誌:Plant Cell Physiology
URL:https://doi.org/10.1093/pcp/pcae017
■英文概要
In heterotrophs, heme degradation produces bilirubin, a tetrapyrrole compound that has antioxidant activity. In plants, heme is degraded in plastids and is believed to be converted to phytochromobilin, rather than bilirubin. Recently, we used the bilirubin-inducible fluorescent protein UnaG to reveal that plants produce bilirubin via a non-enzymatic reaction with NADPH. In the present study, we used an UnaG-based live imaging system to visualize bilirubin accumulation in Arabidopsis thaliana and Nicotiana benthamiana at the organelle and tissue levels. In chloroplasts, bilirubin preferentially accumulated in the stroma, and the stromal bilirubin level increased upon dark treatment. Investigation of intracellular bilirubin distribution in leaves and roots showed that it accumulated mostly in plastids, with low levels detected in the cytosol and other organelles such as peroxisomes, mitochondria, and the endoplasmic reticulum. A treatment that increased bilirubin production in chloroplasts decreased the bilirubin level in peroxisomes, implying that a bilirubin precursor is transported between the two organelles. At the cell and tissue levels, bilirubin showed substantial accumulation in the root elongation region, but little or none in the root cap and guard cells. Intermediate bilirubin accumulation was observed in other shoot and root tissues, with lower levels in shoot tissues. Our data revealed the distribution of bilirubin in plants, which has implications for the transport and physiological function of tetrapyrroles.
■本件に関する問合せ
(研究内容について)
国立大学法人 宇都宮大学 バイオサイエンス教育研究センター 教授 児玉 豊
TEL:028-649-5527 FAX:028-649-8651 E-mail: kodama@cc.utsunomiya-u.ac.jp
国立大学法人 岡山大学 学術研究院医歯薬学域 助教 石川 一也
TEL: 086-251-7954 E-mail: ishikawak88@okayama-u.ac.jp
(報道対応)
国立大学法人 宇都宮大学 広報室(広報係)
TEL:028-649-5201 FAX:028-649-5026 E-mail: kkouhou@miya.jm.utsunomiya-u.ac.jp
国立大学法人 岡山大学 総務・企画部 広報課
TEL: 086-251-7292 FAX: 086-251-7294 E-mail: www-adm@adm.okayama-u.ac.jp