イチゴ研究を進める新しい遺伝子解析支援ツールを公開

投稿者: | 2026年2月26日

■研究概要
栽培イチゴの迅速な研究開発には、味など商業上重要な形質への理解が求められます。宇都宮大学農学部の卒業生 小田桐明音さん、バイオサイエンス教育研究センターのタグン・チョンプラクン特任助教、黒倉健准教授、鈴木智大准教授、児玉豊教授、深沢嘉紀准教授の研究グループは、栽培イチゴ研究のモデル植物である野生イチゴFragaria vesca(和名:エゾヘビイチゴ)を対象に、研究コミュニティで需要の高かったツールを開発し、複数組織・発生段階にまたがる大規模な遺伝子発現アトラスとして公開しました。本研究では、公開データを統合した高品質RNA-seqデータ(233サンプル、50超の組織・発生段階)を解析し、報告されている36,173遺伝子のうち約99%(36,039遺伝子)での発現を検出しました。これは、本アトラスが包括的なデータであることを示しています。さらに、構造変異(SV)や転移因子(TE)と遺伝子発現の関係を統合的に調べ、SVを含む遺伝子群で発現低下傾向がみられることなどを示しました。DNAの構造変化が、遺伝子の働き方に影響を与えていると分かりました。本成果により、イチゴの遺伝子解析や品質改良などを加速させることが期待されます。本研究は、2026年2月5日付けで国際誌PeerJに掲載されました。

■研究の背景
野生イチゴFragaria vescaは、栽培イチゴ(Fragaria × ananassa)研究における重要なモデル植物です。一方、既存のF.vesca研究リソースは対象組織や個別研究に偏りがあり、組織横断的比較や系統差を踏まえた解析は容易ではありませんでした。

また、野生イチゴのゲノムは解読が進んでいますが、より高精度な最新バージョンと、既存知見が蓄積した旧バージョンが併用されており、両者を接続して比較する基盤が求められていました。加えて、植物形質や遺伝子発現に影響しうるSV・TEについて、野生イチゴでの体系的理解は限定的でした。こうした背景を受け、研究グループは研究コミュニティのギャップを埋めるツール群と、横断的な発現アトラスを構築しました。

■研究のポイント

  • H4 v4/v6遺伝子ID変換を実装 (研究現場のニーズに対応)
    旧注釈(v4)で蓄積されたデータや知見を、最新注釈(v6)へ円滑に接続。解析パイプライン更新時の負担などを軽減。
  • 大規模統合アトラスの構築
    233サンプル・50超の組織/発生段階を統合し、注釈済み遺伝子の約99%で発現を検出。定量PCRなど異なる手法との整合性も確認。
  • 組織特異的遺伝子とハウスキーピング遺伝子を体系化
    組織特異的遺伝子群に加え、719の安定発現遺伝子を提示。
  • SV/TEと発現の統合可視化
    構造変異・転移因子情報を重ね合わせ、発現制御の探索を支援。

■研究内容
研究チームは、公開リポジトリから収集したデータを中心に、これらを厳密に品質管理し、変異体・感染条件などを除外し、統合解析を行いました。
その結果、組織ごとの発現クラスタリングが明瞭に再現され、葉では光合成関連、果実では成熟に関わる代謝関連など、組織特異的な生物学的特徴が確認されました。
さらに、大型の変異やトランスポゾンといった転移因子による注釈を発現データと重ね合わせることで、遺伝子構造変化(例:レトロトランスポゾン由来配列の取り込みを伴うエクソン化)などと転写挙動の関係を探索可能にしました。

■今後の展開
本研究は、イチゴの遺伝子機能解析、品種改良候補遺伝子の探索、栽培種への知見展開を加速させる基盤データとして期待されます。
今後は、未充足の発生段階・環境条件を拡充し、機能実証実験と組み合わせることで、形質制御機構の解明をさらに進めます。

■研究支援
本研究は、文部科学省の国立大学法人運営費交付金(教育研究組織改革分)による関連事業として、宇都宮大学イチゴプロジェクト(https://c-bio.mine.utsunomiya- u.ac.jp/strawberry/)の一環で実施されました。

■論文情報
•論文名:Strawberry atlas: Fragaria vesca gene expression atlas for strawberry genomics
•著者:Minto Odagiri, Chonprakun Thagun, Takeshi Kurokura, Tomohiro Suzuki, Yutaka Kodama, Yoshinori Fukasawa
•掲載誌:PeerJ
•DOI:10.7717/peerj.20740

■用語解説
•RNA-seq:細胞内で発現しているRNAを網羅的に測定する手法。
•SV(構造変異):挿入・欠失・逆位など、比較的大きなゲノム構造の変化。
•TE(転移因子):ゲノム中を移動しうる配列。遺伝子発現や構造に影響することがある。
•ハウスキーピング遺伝子:多くの組織で比較的安定に発現する遺伝子。

■英文概要

Rapid R&D in cultivated strawberry requires a solid understanding of commercially important traits such as flavor. A research team from the Center for Bioscience Research and Education and the Faculty of Agriculture at Utsunomiya University developed a highly demanded tool for the research community using the wild strawberry Fragaria vesca (common name: woodland strawberry), a model organism for cultivated strawberry research, and released it as a large-scale gene expression atlas spanning multiple tissues and developmental stages.In this study, the team analyzed high-quality integrated RNA-seq data (233 samples across more than 50 tissues and developmental stages) compiled from public datasets, and detected expression for approximately 99% of the 36,173 reported genes (36,039 genes). They also conducted an integrated analysis of the relationships between structural variants (SVs), transposable elements (TEs), and gene expression, showing, among other findings, a trend toward reduced expression in gene groups containing SVs.

These findings were published in the international journal PeerJ on February 5, 2026.

■本件に関するお問い合わせ


(研究内容に関するお問い合わせ)
国立大学法人 宇都宮大学 バイオサイエンス教育研究センター
准教授 深沢 嘉紀
TEL:028-649-5456
E-mail:yoshinori.fukasawa@a.utsunomiya-u.ac.jp

(報道に関するお問い合わせ)
国立大学法人 宇都宮大学 広報・渉外係
TEL:028-649-5201
FAX:028-649-5027
E-mail:kkouhou@a.utsunomiya-u.ac.jp