干ばつがパンコムギ種子に及ぼす分子的影響の解明

投稿者: | 2023年9月26日

-乾燥被害による減収、小麦粉品質の低下を食い止める-

【発表のポイント】
● パンコムギ種子の成熟過程で起こる遺伝子発現および代謝物変動に特徴があることが判明
● 種子貯蔵タンパク質を構成するアミノ酸が乾燥ストレス下での正常な種子成熟に寄与することが判明
● 乾燥地栽培に適した系統開発において新規育種目標となることを期待

【概要】
近年の気候変動によるパンコムギ生産地を直撃する干ばつの影響は、農作物減収の主な要因となっており、世界で増え続ける人口を養うため食糧の生産と確保が懸念されています。また、パンコムギは種子成熟期にストレスがかかると、結実する種子の品質が損なわれ、商品価値が下がってしまうことが懸念されています。そこで、山口大学の妻鹿良亮准教授らの研究チーム注1)は、耐乾性に関与するアブシシン酸(ABA)受容体をパンコムギの植物体内で多く作らせた、遺伝子組換え体の耐乾性系統(TaPYLox)とそうでない系統(コントロール)に開花1週間後の種子成熟過程の植物に乾燥ストレスを意図的に与えることで、成熟途上種子が受ける影響をトランスクリプトーム注2)解析、およびメタボローム注3)解析により調べました。その結果、小麦粉の品質を左右する種子貯蔵タンパク質注4)の主要構成アミノ酸であるプロリンが乾燥ストレス下でもTaPYLoxは種子に多く存在することが判明しました。一方で、コントロール系統はTaPYLoxほどプロリンの存在量が増加せず、結実する種子もTaPYLoxと比較すると小さく、種子貯蔵タンパク質およびデンプンの存在量も乾燥ストレス環境下でもTaPYLoxの方が多く、種子の形成に必要な成分の蓄積が、非ストレス下と変わらないことが重要であることが示唆されました。本研究成果は、干ばつ下においても品質を維持できるパンコムギ系統開発の際の育種目標となる形質について明らかにし、極端化する気候変動に対応できる系統開発に一石を投じると期待されます。
本研究は、山口大学大学院創成科学研究科の妻鹿良亮准教授、理化学研究所環境資源科学研究センター(CSRS)の金俊植研究員、鳥取大学農学部の田中裕之准教授、同大乾燥地研究センターの石井孝佳准教授、農業・食品産業技術総合研究機構作物研究部門の安倍史高上級研究員、宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センターの岡本昌憲准教授(兼、理化学研究所CSRSチームリーダー)らを中心とする研究チームによる研究成果として、2023年9月11日(英国時間)に国際学術雑誌「Scientific Reports」のオンライン版で公開されました。

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<担当・問合せ先>
バイオサイエンス教育研究センター
准教授 岡本 昌憲
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