マイクロプラスチックの毒性は粒子サイズと発育段階で変化する

投稿者: | 2025年8月15日

―環境リスク評価の精度向上に向け、オオミジンコを用いた実験で新知見を取得―

■研究概要
近年、マイクロプラスチックによる水環境汚染が深刻な問題として認識されつつあります。これらの微小なプラスチック粒子は、生物によって誤食されることで生態系に影響を及ぼす可能性があり、とりわけプランクトンなどの小型水生生物に対する毒性が懸念されています。しかし、マイクロプラスチックの影響は粒子のサイズや素材、生物の発育段階によって大きく異なるため、定量的な評価が困難です。本研究では、淡水生物であるオオミジンコ(Daphnia magna)をモデルとし、ポリスチレン製のマイクロビーズ(3 µmおよび30 µm)が発育段階に応じてどのような毒性影響をもたらすかを解析しました。連続曝露、サイズ混合曝露、発育段階に応じた段階的曝露という3つの実験条件を設定し、粒子サイズと発育段階の相互作用を評価しました。その結果、小粒径は初期発育段階で、大粒径は後期発育段階で顕著な毒性を示すことが明らかとなりました。これらの知見は、マイクロプラスチックの環境影響評価において、粒子サイズと生物のライフステージを考慮した新たな評価枠組みの必要性を示唆するものです。本成果は、2025年7月30日付の米科学誌「Journal of Applied Toxicology」に掲載されました。

■研究背景 
近年、プラスチック汚染の問題が深刻化しており、特に環境中に存在するマイクロプラスチック(直径5 mm未満の微細なプラスチック粒子)の生態影響に注目が集まっています。そのため現在までに単一のプラスチック粒子を使用した毒性試験がさまざまな生物種を用いて数多く行われてきました。しかしながら、マイクロプラスチックは粒子のサイズや形状、素材の種類などが非常に多様であるため、従来の化学物質評価法ではその影響を適切に捉えることが困難です。さらに形状に加えて、マイクロプラスチックが生物に与える影響は、添加物成分の溶出や、摂取する生物種の摂食行動の様式、および発育段階などによっても変化する可能性が指摘されています。本研究では、このようなマイクロプラスチックの毒性に影響する複合的な要因に着目し、モデル動物であるオオミジンコを用いて、これらの中でも特に粒子サイズと発育段階が毒性に与える相互作用を明らかにすることを目的としました。

■研究成果
本学地域創生科学研究科大学院生(研究当時)の伊東春佳さんとバイオサイエンス教育研究センターの宮川一志准教授は、粒子径の異なる2種類のポリスチレン製マイクロビーズ(3 µmおよび30 µm)を用い、3つの異なる曝露デザイン(単一サイズでの連続曝露、混合サイズでの連続曝露、段階的曝露)により、オオミジンコの生存や繁殖への影響を評価しました。単一サイズでの曝露では、3 µm粒子は初期発育段階において顕著な毒性を示し、30 µm粒子は主に後期発育段階で毒性を示しました。これは、ミジンコの成長に伴う摂餌能力や口器サイズの変化(gape limitation)により、粒子の摂取量が異なることに起因すると考えられます。

混合サイズでの曝露では、両サイズの粒子が同時に存在する環境下で、ミジンコは発育段階に応じた摂取傾向を示しました。特に、段階的曝露実験では、発育段階ごとに最も影響を及ぼす粒子サイズが異なることが示され、単純な平均濃度による評価では見落とされる毒性影響が浮き彫りとなりました。

これらの結果は、マイクロプラスチックの毒性評価において、単なる濃度やサイズの違いだけでなく、生物の発育段階や摂餌能力を考慮した動態的な評価が必要であることを示しています。また、自然環境では多様なサイズの粒子が混在しており、それに対する生物の応答も複雑であるため、より現実的な評価手法の開発が急務であることが示唆されました。

■今後の展望
今後は、より多様なマイクロプラスチック(形状・素材)の影響を、生物の発育段階や生活史を考慮した動的な評価系で解析することが求められます。また、本研究で示された「発育段階と粒子サイズの相互作用」に基づく評価枠組みを拡張し、他の動物種や生態系への影響を包括的に評価することが重要です。将来的には、マイクロプラスチックの物理的特性を考慮した新たな毒性評価指標の開発や、環境政策への応用も期待されます。

■研究支援
本研究は、JSPS科研費・基盤研究(B)(代表:宮川一志、25K02323)、ERCA環境研究総合推進費(代表:宮川一志、1RF-2202)の支援を受けて実施されました。

論文情報
論文名:Developmental-Stage-Dependent Gape Limitation in the Toxic Effect of Polystyrene Microbeads on the Water Flea, Daphnia magna (オオミジンコにおける発達段階ごとの口の大きさの違いがポリスチレンマイクロビーズの毒性に与える影響)
著者:Haruka Ito, Hitoshi Miyakawa*
掲載誌:Journal of Applied Toxicology
URL:https://doi.org/10.1002/jat.4875

英文概要
Complex mechanisms by which microplastics exert toxicity in natural environments are poorly understood, and their ecotoxicological assessment remains challenging due to their heterogeneous nature and physical properties. Methods for standard toxicity tests, originally developed for soluble chemicals, often fail to account for microplastic-specific behaviors such as sedimentation and variable ingestion by organisms. In this study, we used a rotator-based, semi-static exposure system to evaluate developmental-stage-specific toxicity of polystyrene microbeads of two sizes (3 μm and 30 μm) on Daphnia magna. Three exposure designs were employed: continuous exposure to single bead sizes, exposure to size mixtures, and sequential exposure aligned with developmental stages. These results demonstrated that 3-μm beads exerted stronger toxic effects in early life stages, whereas 30-μm beads had greater impacts in later stages, likely due to gape limitation and ontogenetic changes in ingestion capacity. Mixed-size exposure revealed potential additive or synergistic effects, particularly for body length. The rotator system ensured homogeneous particle suspensions and reproducible data, overcoming limitations of conventional static systems. These findings highlight the need to consider particle size heterogeneity, organismal developmental stage, and exposure method when assessing microplastic toxicity. Furthermore, our findings also suggest that chronic exposure to mixed particle sizes may better represent environmental situations and reveal stronger biological impacts than single-size exposures. By integrating particle size with organismal traits and realistic exposure dynamics, this study provides insight into the multifactorial nature of microplastic toxicity and supports the development of more ecologically relevant assessment methods.

本件に関する問合せ
(研究内容について)
国立大学法人 宇都宮大学 バイオサイエンス教育研究センター 准教授 宮川一志
TEL:028-649-5527 FAX:028-649-8651 E-mail: h-miya※cc.utsunomiya-u.ac.jp

(報道対応)
国立大学法人 宇都宮大学 広報・渉外係
TEL:028-649-5201 FAX:028-649-5026 E-mail: kkouhou※a.utsunomiya-u.ac.jp
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