プラスチックなどに添加されるカルボジイミド化合物がミジンコに毒性を示すことを発見

投稿者: | 2023年7月19日

宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センターの松本惠特任技術職員、伊東春佳大学院生、宮川一志准教授は、東京工業大学物質理工学院の佐藤浩太郎教授の研究グループ、京都大学大学院工学研究科の沼田圭司教授(兼:理化学研究所環境資源科学研究センターチームリーダー)の研究グループと共に、プラスチックなどに添加されるカルボジイミド化合物がミジンコに毒性を示すことを発見しました。本研究は、2023年7月13日付の米科学誌「Journal of Applied Toxicology」に掲載されました。

プラスチックなどの添加剤であるカルボジイミド化合物はオオミジンコに毒性を示す

 海洋プラスチック汚染問題に代表されるように、我々の生活と密接に関わる高分子材料(プラスチック)が自然界に放出された際に環境にどのような影響を与えるかが昨今大きく注目されています。そのため近年では材料としての機能性に加え、自然環境下で完全に分解され無毒化される生分解性プラスチックが盛んに研究・開発されています。一方で、環境中で数ヶ月にも及ぶこれら生分解性プラスチックの分解過程では様々な化学物質が生じますが、それらの生物への影響はこれまでほとんど考慮されてきませんでした。

 研究グループは代表的な生分解性プラスチックであるポリカプロラクトン(PCL)を対象として、その分解過程で生じると予想される物質群の生物に対する影響を、ミジンコの一種であるオオミジンコを用いて解析しました。ミジンコは湖沼の食物連鎖の中核に位置する生物であり、生態系の維持に必要不可欠な生物であるため、毒性試験の対象種としてよく用いられています。

 実験の結果、未分解のPCLの粒子は高濃度で曝露するとミジンコの消化管に詰まり生存率を低下させましたが、PCLの分解産物であり分子量が小さいオリゴマーやモノマーではそのような影響は見られませんでした。これらは生分解性プラスチックの有効性を示唆する結果です。

 一方で、PCLを含む高分子化合物を工業的に生産する際にその安定性を高めるために添加されるカルボジイミド化合物の毒性を、同様にミジンコを用いて調べた結果、0.1〜1 mg/Lの濃度でほとんどのミジンコを死滅させる比較的強い毒性を示しました。カルボジイミド化合物が添加された高分子材料が環境中で分解された際に、流出したカルボジイミド化合物が周囲の生物に悪影響を与える可能性は否定できません。今後生分解性プラスチックの安全性を評価する際には、添加物の毒性や分解時の流出量も調べる必要があると考えられます。

【論文】 Matsumoto M, Ito H, Tateishi A, Kobayashi Y, Satoh K, Numata K, Miyakawa H, “Effects of polycaprolactone degradation products on the water flea, Daphnia magna: Carbodiimide additives have acute and chronic toxicity”. Journal of Applied Toxicology.https://doi.org/10.1002/jat.4516

<担当・問合せ先>
バイオサイエンス教育研究センター 宮川 一志 准教授
TEL:028-649-5527
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