「魚のヒレ」 長かったり、短かったり⁉ 仕組みを解明―ヒレの多様な形成位置をもたらす単純なシステム―

投稿者: | 2024年6月14日

 埼玉大学大学院・理工学研究科・生体制御学プログラム 川村哲規 准教授と安達うらら 大学院生(令和 5 年度博士前期課程修了)を中心とするグループは、宇都宮大学・バイオサイエンス教育研究センター 松田 勝 教授、岩波礼将 特任准教授、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 川上浩一 教授、前野哲輝 技術専門職員、埼玉大学・理工学研究科 古舘宏之助教らと共同で、魚のヒレの形成される位置が Hox(ホックス)遺伝子によって制御されていることを初めて明らかにしました。この成果により、Hox遺伝子の働く場所が魚の種類によって異なることで、バラエティーに富んだヒレが生み出されることが示唆されました。つまり、多様なヒレの位置やヒレの幅の違いは、Hox遺伝子からなるシステムを一部、変化させることで生じていることが分かりました。さらに、本研究から、進化の過程で、魚のヒレの形成位置が変化してきた仕組みについて、新たなモデルが提唱されました。本成果は、『米国科学アカデミー紀要』(PNAS、インパクトファクター12.8)に掲載されました。

【ポイント】
・「背ビレ」や「臀(しり)ビレ」は、魚の種類によって、からだの前後軸に沿って、「ヒレの形成される位置」や「ヒレの幅(前後に沿った長さ)」が異なります。どのようにして、このような多様性が生じるのか、全くの謎でした。
・ からだの位置情報を担う Hox遺伝子に着目し、さまざまな Hox遺伝子を破壊したゼブラフィッシュやメダカを作製した結果、「ヒレ形成」を促進する Hox遺伝子と、「ヒレ形成」を抑制する別の Hox遺伝子があり、ヒレの前端と後端の位置を決めていることが分かりました。
・ Hox遺伝子の働く場所は、動物種によって変化することが知られています。ヒレにおいても、Hox遺伝子の働く場所が、魚種によって異なることによってパラメーターのように機能し、ヒレの形成位置を変え、バラエティーに富んだヒレが生じることが、本研究によって初めて明らかとなりました。
・ また、進化の過程で、ヒレの形成位置が変化する仕組みについて、新たな進化モデルを提唱しました。
・ 本研究で発見された Hox遺伝子による魚のからだづくりのシステムを標的とすることで、人工的に「カタチ」を変えた養殖魚や観賞魚の作出が期待されます。

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【論文情報】
掲載誌 Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)
URL https://www.pnas.org/
DOI 10.1073/pnas.2403809121
論文名 Teleost Hox code defines regional identities competent for the formation of dorsal and anal fins
(真骨魚類 Hox コードは、背ビレや臀ビレが形成可能な領域を規定する)
著者名 Urara Adachi, Rina Koita, Akira Seto, Akiteru Maeno, Atsuki Ishizu, Sae Oikawa, Taisei Tani, Mizuki Ishizaka, Kazuya Yamada, Koumi Satoh, Hidemichi Nakazawa, Hiroyuki Furudate, Koichi Kawakami, Norimasa Iwanami, Masaru Matsuda, and Akinori Kawamura

【研究支援】
科学研究費補助金 基盤研究(C) 18K06177, 23K05790
国立遺伝学研究所 NIG-JOINT 38A2019, 7A2020, 66A2021, 18A2022, 31A2023

【問い合わせ】(研究に関して)
国立大学法人埼玉大学 大学院理工学研究科 生体制御学プログラム 准教授
川村 哲規 (カワムラ アキノリ)

国立大学法人宇都宮大学 バイオサイエンス教育研究センター 教授
松田 勝(マツダ マサル)

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 教授
川上 浩一(カワカミ コウイチ)