第119回C-Bioセミナー
2024年11月26日(火)13時30分~
場所:対面(宇都宮大学峰キャンパスゲノミクス研究棟2Fセミナー室)
講演者:種子田春彦 博士(東京大学 大学院理学系研究科 附属植物園(日光))
タイトル:植物体内の水輸送と適応戦略
陸上植物では、光合成のために二酸化炭素を吸収する際に乾いた大気へ体内の水が蒸散作用により失う。植物が良好な水分状態を保って生育するためには、蒸散で水を失う速度と土壌から根で吸収して維管束などを経由して供給する速度をうまく釣り合うように、分布環境にあわせて形態的、生理的な制御を行っている。本セミナーでは、こうした植物の水輸送に関連して行ってきた研究をいくつか簡単に紹介する。また、講演の中では、所属する日光植物園の植栽についても紹介したい。
第118回C-Bioセミナー(第5回イチゴセミナー)
2024年11月18日(月)14時30分~
場所:対面(宇都宮大学峰キャンパスゲノミクス研究棟2Fセミナー室)およびオンラインのハイブリッド形式
講演者:野口 裕司 博士(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)
タイトル:イチゴ近縁野生種を用いた育種
内容:栽培イチゴの遺伝的変異を拡大するために、様々な近遠野生種との交配が試みられてきたが、野生種と栽培種との間には交雑不和合性が認められている。和合性が高いと報告されているF.vescaの他に栽培種と交雑可能な野生種を探索し、着果性の良い複数の種間雑種を作出した。香気など野生種の持つ特性の直接利用のみならず、種子繁殖型品種の母本としての利用、核置換による細胞質雄性不稔系統の作出など、種間雑種系統の育種利用を検討する。また、種間雑種初の普及品種「桃薫」や八重咲き(ペタロイド型雄性不稔)品種「MS1615-01」について紹介する。
第117回C-Bioセミナー(第4回イチゴセミナー)
2024年10月21日(月)13時30分~
場所:対面(宇都宮大学峰キャンパスゲノミクス研究棟2Fセミナー室)およびオンラインのハイブリッド形式
講演者:多田 雄一 博士(東京工科大学 応用生物学部 植物工学研究室)
タイトル:イチゴ品種候補「東京幸華(とうきょうこうか)」の作出と高糖度イチゴの栽培に向けて
内容:イチゴの糖度を高める栽培方法の研究過程で、オリジナルのイチゴ品種の作出に取り組み、越後姫とよつぼしの交配後代から高糖度系統を選抜して「東京幸華(とうきょうこうか)」と名付けた。東京幸華は、25℃、12h明期の人工気象室内での栽培では、平均糖度17.7度を示したが、2023-2024年のハウス栽培では平均糖度11.4度であった。本セミナーでは東京幸華の育成と特性について紹介するとともに、2024年に東京工科大学に設立された「食と農の未来研究センター」における東京幸華の栽培法と品質に関する研究の取り組みについても紹介する。また、これまでに市販のイチゴ品種の水耕栽培時に添加することで糖度を高める物質の検討を行っており、それらの結果についても紹介する。
第116回C-Bioセミナー
2024年9月6日(金)10時00分~
場所:宇都宮大学峰キャンパスゲノミクス研究棟2Fセミナー室
講演者:Mark Aarts教授 (Wageningen大学)https://www.wur.nl/en/persons/mark-aarts.htm
タイトル:Genetic analysis of photosynthesis efficiency, clues for breeding improved yield?
内容:Photosynthesis is the main driver of plant biomass production.
While crop yields have been increased impressively through breeding the past century, there never has been a strong selection on high photosynthesis efficiency. My group explores the opportunities to characterize the genetic variation for photosynthesis efficiency in the model species Arabidopsis thaliana . One of the challenges in investigating such genetic variation is the ability to adequately phenotype photosynthesis parameters. For this purpose, we use sophisticated phenotyping platforms designed for high-throughput imaging of light use efficiency of photosystem II electron transport (ΦPSII or
Fq’/Fm’) and related photosynthetic parameters through chlorophyll fluorescence measurements, such as available in the Netherlands Plant Eco-phenotyping Centre (www.npec.nl).
第115回C-Bioセミナー(第3回イチゴセミナー)
2024年8月9日(金)14時00分~
場所:対面(宇都宮大学峰キャンパスゲノミクス研究棟2Fセミナー室)およびオンラインのハイブリッド形式
講演者:磯部 祥子 博士(東京大学大学院 農学生命科学研究科 園芸学研究室)
タイトル:NGSの技術発展とともに歩むイチゴゲノム解読の軌跡
内容:イチゴは他殖性かつ異質八倍体であるため、ゲノム構造が二倍体種よりも複雑であり、次世代型シーケンサー(NGS)が商用化された2010年頃にはゲノム解読が非常に難しい種であると考えられていた。しかし、その後のNGS技術開発の進展に伴い、ゲノム解読の精度が徐々に向上し、特に最近ではロングリードシーケンサーの普及により、相当な精度でゲノム解読を比較的容易に行うことが可能となった。さらに、深層学習を利用したツールにより、遺伝子予測も従来より高速に実施することができるようになった。その結果、複数の品種のゲノムや遺伝子配列を比較することができるパンゲノムの時代に突入している。本セミナーでは、NGS技術の進化に合わせてイチゴゲノム解読がどのように進んだのか、その軌跡を紹介する。
第114回C-Bioセミナー
2024年7月19日(金)10時20分~
場所:宇都宮大学峰キャンパス1E11教室
講演者:川村 哲規 博士(埼玉大学)
タイトル:ゼブラフィッシュとメダカの比較から紐解く魚類の背ビレと臀ビレの形態多様性と進化
内容:魚の種類を特徴づける形質の一つにヒレの位置や形があります。背ビレが背中のどこから始まりどこで終わるかは魚種によって大きく異なります。また臀ビレの終わりの位置も多様です。このような魚類のヒレの位置や形の多様性がどのようにして生じるのかは全くわかっていませんでした。今回、川村先生のグループは、からだの位置情報を担うHox遺伝子群に着目し、さまざまなHox遺伝子を破壊したゼブラフィッシュやメダカを作製した結果、ヒレ形成を促進するHox遺伝子と、ヒレ形成を抑制する別のHox遺伝子があり、これらがヒレの前端と後端の位置を決めていることを明らかにしました。この成果により、Hox遺伝子の働く場所が魚の種類によって異なることで、バラエティーに富んだヒレが生み出されることが本研究より初めて明らかとなりました。さらに、背ビレや臀ビレの形成位置を変化させた進化について、新たな知見が得られたので併せて紹介してもらいます。
第113回C-Bioセミナー(第2回イチゴセミナー)
2024年6月28日(金)13時00分~
場所:対面(宇都宮大学峰キャンパスゲノミクス研究棟2Fセミナー室)およびオンラインのハイブリッド形式
講演者:高木 宏樹 博士(石川県立大学)
タイトル:次世代シーケンサーを用いたFragaria属植物における遺伝解析の展開
内容:Fragaria属植物では、2011年に二倍体野生種であるF. vescaの基準ゲノム配列がはじめて決定され、近年では、異質八倍体のオランダイチゴ (F. x ananassa) の基準ゲノム配列も決定された。それ故、様々なFragaria属植物種において次世代シーケンサー (NGS) 由来のリードを用いたリシーケンス技術によるゲノムワイドな変異箇所同定が可能になった。本セミナーでは、リシーケンスデータを用いた解析により、まず、F. vescaのEMS突然変異体において標的形質の原因変異箇所を同定した手法を紹介する。また、F. x ananassaにおいて季成り性および四季成り性を決定する遺伝子領域PFRUの座乗位置を同定した手法についても紹介する。
第112回C-Bioセミナー(植物分子農学シリーズ)
2024年6月17日(月)12時40分~
場所:宇都宮大学峰キャンパス ゲノミクス研究棟2階セミナー室
*遠隔受講希望者はzoonにて配信
講演者:玉木 峻 博士(理化学研究所環境資源科学研究センター)
タイトル:細胞解析技術を利用して微細藻ユーグレナのカロテノイド機能を明らかにする
内容:光合成生物が普遍的に有する色素カロテノイドは光合成、抗酸化、光応答などに機能している。微細藻類の一種であるユーグレナが持つカロテノイドの機能を明らかにするために、様々な細胞解析技術を利用して研究を行ってきた。一つ目はタイムゲート法を用いた細胞イメージングである。これによりクロロフィルの自家蛍光を排除して、細胞内の活性酸素分子の動態を蛍光色素を用いて可視化することができた。二つ目は細胞の運動軌跡の解析技術である。これにより光に応答した細胞の遊泳の様子を定量化することができた。本講義ではこれらの方法と成果について詳細に紹介する。
第111回C-Bioセミナー(植物分子農学シリーズ)
2024年6月12日(水)8時40分~
場所:オンライン
講演者:Dr.Jekson Robertlee(理化学研究所環境資源科学研究センター)
タイトル:Harnessing molecular components to build a synthetic regulatory circuit: a platform for a smart metabolic reprogramming
内容:Arrangements of electrical components that work as logic gate circuits to process signals and allow electronic devices to function have brought us to the digital era. The same concepts have long been used in organisms since the beginning of life. Organisms maintain metabolisms through a chain of complex biochemical reactions processed by molecular components such as genes and protein networks. However, synthetic molecular components are needed to finetune biological phenomena through
biotechnology approaches. Therefore, a clear understanding of how organisms respond to endogenous and exogenous signals at the molecular level is needed to shed our ways to finetune them to our needs. In this talk, I would like to share my experience looking for clues to identify and develop the molecular components to act differently for biotechnology purposes. I will discuss my previous research in elucidating the regulation mechanism of the key-regulatory enzyme of a metabolic pathway in the plant; how to exemplify the knowledge to aid a gene finding that produces rare compounds; and strategies to produce a high-value compound in a heterologous host. I will also discuss my recent research on developing a novel synthetic regulatory circuit in plants, which acts as an additional molecular tool for plant science in the era of synthetic biology. By carefully designing the arrangements of molecular components, we may reprogram biological functions, which brings us closer to achieving sustainability by design.
第110回C-Bioセミナー(植物分子農学シリーズ)
2024年5月27日(月)14時20分~
場所:宇都宮大学峰キャンパス ゲノミクス研究棟2Fセミナー室
講演者:戸高 大輔 博士(理化学研究所環境資源科学研究センター)
タイトル:植物の環境ストレス耐性を向上させるエタノールプライミング
内容:植物は、乾燥や高温などの環境ストレスに対し優れた耐性機構を進化的に発達させてきた。近年、ケミカルプライミングという手法によって環境ストレス耐性をさらに向上させる研究が盛んに進められている。ケミカルプライミングは、特定の化合物で植物を予め処理することでその後曝されるストレスによる障害を軽減させる技術である。我々の研究室は、古くから人間にとって身近な物質であるエタノールで植物を予め処理することにより環境ストレス耐性が強化されることを見出した。本講義では、このエタノールによるプライミング機構の仕組みを解明する研究内容について紹介する。
第109回C-Bioセミナー(第1回イチゴセミナー)
2024年5月9日(木)14時00分~
場所:対面(宇都宮大学峰キャンパスゲノミクス研究棟2Fセミナー室)およびオンラインのハイブリッド形式
講演者:吉田梨乃氏(東京工業大学大学院・生命理工学院)・刑部祐里子 博士(東京工業大学・生命理工学院)
タイトル:イチゴのゲノム編集と生長様式の解明
内容:私たちは、植物の多種多様な生理応答を理解することを目的として、モデル植物以外の植物種における遺伝子機能解析のための技術開発を進めている。イチゴは、クローンを形成して増殖する栄養繁殖を示し、モデル植物にはない特徴をもつ。そこで、私たちはイチゴの栄養繁殖の制御に重要な役割を果たす植物ホルモンとしてストリゴラクトンに着目した。高効率CRISPR-Cas9を用い、二倍体野生イチゴFragaria vescaにおいてストリゴラクトン受容体D14遺伝子機能欠損変異体 (fvd14)を作製した。本セミナーでは、イチゴ特有のD14遺伝子機能欠損変異体の表現型について紹介する。さらに、個体レベルでの表現型解析に加え、イチゴ特有のクローン個体を含む群落でのfvd14の繁殖様式を明らかにするために、フィールドを模したバット上でイチゴを育成し、カメラを用いた繁殖の経時的解析を行った。このような実験系において新たに明らかとなったfvd14の表現型についても併せて紹介し、イチゴの栄養生長と生態について議論したい。
第108回C-Bioセミナー(植物分子農学シリーズ)
2024年4月24日(水)16時00分~
場所:オンライン
講演者:淡川 孝義 博士(理化学研究所環境資源科学研究センター)
タイトル:天然物生合成経路の利活用による新規活性分子の創出
内容:天然物生合成経路の中には、共通の中間体から複数の骨格へと生合成されるものが存在し、それらの酵素反応を解析し、利用することで、多様な活性分子を合成することが可能となる。本講義では、天然物の生合成に関わる、特異な生合成酵素とその利用による物質生産について解説する。糸状菌メロテルペノイドの生合成を例に挙げると、テルペン環化には共通の中間体からいくつかの生成物を与えるバリエーションがあり、それらをゲノムマイニングして用いることで多様な生合成経路を一挙に組み上げることができる。また、酸化酵素の中には構造類似性が高いが異なる反応を触媒するものが存在し、これらを結晶構造解析し、変異体を合成し、これを反応に用いることで、酸化位置、回数が異なる新たな生成物を取得することができる。