根寄⽣雑草の寄⽣を制御する酵素の解明-アフリカ諸国の主要穀物であるソルガムの被害軽減を可能に-

投稿者: | 2021年9月21日

東京農工大学連合農学研究科博士課程3年の依田彬義(宇都宮大学配置・日本学術振興会特別研究員DC2)と宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センターの野村崇人准教授は、大阪府立大学の秋山康紀教授、筑波大学の三浦謙治教授、愛媛大学の米山香織講師、東京農業大学の伊澤かんな准教授、京都大学の山口信次郎教授とカリフォルニア大学リバーサイド校のデイビッド・ネルソン准教授らとの国際共同研究グループによって、根寄生雑草ストライガの寄生に関与する宿主植物ソルガムの酵素の機能を明らかにしました。本研究による成果は、アフリカ諸国の主要穀物であるソルガムの生産に大きな被害を与えているストライガを防除するための新たな技術開発が可能になるものと期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「New Phytologist」のオンライン版で、令和3年9月15日に公開されました。

ケニアにてソルガムに寄生しているストライガ(紫色の花)[写真提供:名古屋大学・土屋雄一朗教授]

■研究背景■
 根寄生植物(補足説明1)のストライガ(Striga)、オロバンキ(Orobanche)やフェリパンキ(Phelipanche)は、宿主植物の根に寄生して養水分を奪うため、世界各地の農業に甚大な被害を与えています。特に被害が大きいサハラ砂漠以南のアフリカ諸国では、5,000万ヘクタールの農耕地がストライガに汚染されており、農業損失額は年間100億ドルを上回ります。根寄生植物は、宿主植物の根から分泌されているストリゴラクトン(strigolactone, SL) (補足説明2)という物質を認識することにより種子が発芽して寄生します。SLの本来の役割は、植物の根に共生して主にリン酸の吸収を助けている菌類のアーバスキュラー菌根菌(AM菌)への共生シグナルです。また、SLは植物体内で自身の枝分かれを制御する植物ホルモンとしても機能しています。すなわち、植物は土壌中の栄養が少ない場合は、SL生産・分泌量を増やしてAM菌との共生を促進しつつ、自身の枝分かれを抑えるということを同時に制御しています(補足図1)。そして、そのシグナルを宿主認識として利用している根寄生雑草の被害は、アフリカのような痩せた土地において必然的に大きいのです。

 現在までに根寄生雑草に有効な防除法は確立されていません。根寄生植物に寄生されないようにするにはSLを生産しない作物の選抜等が考えられますが、SL生産量が低下するとAM菌と共生もできなくなってしまいます。土壌中のリン酸はその多くが金属イオンと結合して不溶化しているため植物は根で吸収できませんが、AM菌が吸収して植物に分け与えてくれています(植物は光合成産物を与えています)。そのため、AM菌と共生できないと植物は生育が悪くなってしまいます。また、SLが欠損すると植物において枝分かれの異常も引き起こしてしまいます。

 本研究は独自に解析したソルガム(Sorghum bicolor) (補足説明3)の品種Tx430(補足図2)に関する研究が端緒となりました。ソルガムは、主要なSLとして5-deoxystrigol (5DS)という構造のものを生産していますが、Tx430という品種の主要なSLはC環の立体が逆でB環に水酸基が付加されたorobanchol (Oro)というものに変わっていました(補足図3)。ソルガムに寄生する主要な根寄生植物ストライガ(Striga hermonthica)の種子は5DSによって発芽が強く誘導されますが、Oroに対しては弱いことが分かっています(補足図3)。すなわち、Tx430はストライガに寄生されにくい形質を持っていることになります。一方、AM菌に対しては共生誘導(菌糸分岐)活性は5DSよりもOroの方が強いことが分かっています。また、SL欠損でもないことから枝分かれにも影響を与えません。すなわち、この品種の解析は、SLの「量」ではなく「質」を変えることにより根寄生雑草だけを制御する技術の基盤になります。

■研究手法と成果■ 
 ソルガムTx430は、遺伝子組換え効率が高い性質をもっていることからソルガムの遺伝学的研究によく用いられている品種です。Tx430は米国テキサスA&M大学においてアフリカの品種を掛け合わせて作出されたものですが、ストライガ耐性としての形質をもっていることは知られていませんでした。興味深いことに、これまでに育種により作出されたソルガムのストライガ耐性品種はTx430と同様にOro生産体に変わっており、そして、米国とオランダの研究グループによりLOW GERMINATION STIMULANT 1 (LGS1)と命名された遺伝子が欠損していることが報告されていました(Gobena et al., PNAS, 114: 4471-4476, 2017)。そこで、Tx430を確認したところ、同様にLGS1遺伝子が欠損していることが明らかになりました。また、農研機構遺伝資源研究センターが保有しているアジアとアフリカの107品種を取り寄せて解析したところ、新たにLGS1遺伝子が欠損しているアフリカの3品種を見つけました。

 LGS1は硫酸基転移酵素 (補足説明4)に属するタンパク質をコードしていますが、その機能は解明されていませんでした。硫酸基を使って立体の異なる産物を生成する反応は、これまでに知られている天然物には見られない反応でした。そこで、ソルガムの立体特異的なSLの環化反応に関わるLGS1タンパク質の機能の解明を進めました。LGS1タンパク質の基質はlgs1欠損変異体に蓄積している可能性が高いと考え、Tx430などのlgs1変異体を分析したところ、SLの前駆物質として18-hydroxycarlactonoic acid (18-OH-CLA)という物質が蓄積していることを発見しました。

 これまでの本研究グループの研究(補足説明5)から、18-OH-CLはシトクロムP450酵素(補足説明6)のCYP711Aファミリーにより生成されていることが推測されました。ソルガムに4つあるCYP711Aの酵素機能を調べたところ、そのうちの一つがcarlactoneという前駆体から18-OH-CLAを主要な産物として生成していることを明らかにしました(補足図4)。

 次ぎに、18-OH-CLAはLGS1酵素の基質なのかを調べるため、大腸菌で発現させたLGS1タンパク質と18-OH-CLAをインキュベートして確かめることにしました。LGS1タンパク質は細胞質に局在する可溶性酵素です。そのような異種生物の可溶性タンパク質を大腸菌を用いて発現させた場合、不溶性の画分に凝集してしまい(封入体)、機能的なタンパク質を発現できないことがよく起こります。LGS1タンパク質も封入体になってしまい、既存の可溶性タグ(GSTなど)や低温誘導を試みましたが改善が見られませんでした。そこで新たに可溶性発現を強力に誘導する方法を開発しました(野村崇人、依田彬義、鈴木智大、タンパク質の発現方法およびタンパク質発現ベクター、特願2019-130070)。その方法は、可溶性発現が非常に高い大腸菌のβ-グルクロニダーゼ(GUS) (補足説明7)を融合して発現させる方法です。その方法によりLGS1の可溶性発現に成功しました(補足図5)。

 合成した18-OH-CLAと大腸菌で発現させたLGS1タンパク質をインキュベートしたところ、硫酸基供与体3′-phosphoadenosine-5′-phosphosulfate依存的に5DSの生産が確認されました。しかし、同時にその立体異性体の4-deoxyorobanchol (4DO)も検出されました(補足図4)。これは18-OH-CLAの水酸基に硫酸基が付加して脱離し、酵素非依存的にC環の環化が進んだためと考えられました。4DOはソルガムからは検出されません。すなわち、5DSだけを生産する経路にはもう一つ、C環の立体を決める酵素が必要であることが分かりました。

■今後の期待■
 ストライガ耐性品種に関しては、現地によって様々な品種が混在しており、育種による品種改良がほとんど進んでいません。そのため、あらゆる品種にストライガ耐性を付与できる薬剤の開発が望まれています。ストライガの寄生に関与するLGS1酵素の機能が部分的にでも明らかになったことにより、その活性を指標にした阻害剤のスクリーニングが可能となり、根寄生雑草だけを制御できる薬剤の開発の道がひらけました。ソルガムはアフリカ諸国において重要な穀物ですが、ストライガの主要な宿主であるため甚大な被害を受けています。ストライガが侵入した土地では農作物の収量を平均で40%も低下させており、時には全く収穫できないこともあります。現在のところ日本には農作物に大きな被害を与えている根寄生雑草種は侵入していませんが、地中海沿岸諸国やオーストラリアといった農業先進国における根寄生雑草(主にオロバンキとフェリパンキ)の被害も顕在化しています。本研究成果を基盤にして根寄生雑草に有効な防除法が開発されれば、その被害を受けている世界中の多くの人々を救うことができます。

■論文情報■
掲載誌:New Phytologist  
題名:Strigolactone biosynthesis catalyzed by cytochrome P450 and sulfotransferase in sorghum
著者: YodaA, MoriN, AkiyamaK, KikuchiM, XieX, MiuraK, YoneyamaK, Sato-IzawaK, YamaguchiS, YoneyamaY, Nelson DC, Nomura T
DOI: https://doi.org/10.1111/nph.17737

■謝辞■
本成果は、科研費基盤(C)(課題番号19K05838)、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(課題番号27004A)、筑波大学形質転換植物デザイン研究拠点等の支援を受けて行われました。ソルガムの種子は農研機構遺伝資源研究センターから分与いただきました。

■問い合わせ先■
<研究に関すること>
宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センター
野村 崇人 (ノムラ タカヒト)
Tel:028-649-5149  E-mail: tnomura@cc.utsunomiya-u.ac.jp
研究室HP: http://c-bio.mine.utsunomiya-u.ac.jp/nomura/

<本件に関する問合せ先>
宇都宮大学 バイオサイエンス教育研究センター
増山 芳香 (マスヤマ ヨシカ)
TEL:028-649-5527 FAX:028-649-8651   Email:c-bio@cc.utsunomiya-u.ac.jp

■補⾜図■

■補足説明■
補足説明1(根寄生植物):光合成能力が低下していたり、全く光合成をしていないため、別の植物の根に寄生して養水分を奪わないと生きられない。ストライガは主にイネ科に寄生にし、オロバンキとフェリパンキはナス科、マメ科、キク科やセリ科などの作物に寄生する。直径0.2 mmほどの微細な種子を一個体あたり数万〜十万粒の種子をつける。種子は土壌中で数十年も休眠することができて、宿主の根が近くに現れるまで待ち構えている。

補足説明2(ストリゴラクトン, SL): SLの基本構造は3環性のラクトン(ABC環)とメチルブテノライド(D環)がエノールエーテル結合したものである(補足図3)。これまでに主に根寄生植物の種子発芽活性を指標にして様々な植物種の根滲出液から30種類以上単離・同定されており、SLはそれらの総称である。多様なSL構造は植物種固有の根圏シグナルであると考えられるが、詳しいことは分かっていない。また、植物体内で植物ホルモンとして働いている活性本体の構造も分かっていない。

補足説明3(ソルガム):熱帯地域原産の作物で乾燥に強く、イネやコムギが育たない地域で栽培できる。コムギ、イネ、トウモロコシ、オオムギに次いで世界第5位の生産量である。主に食用の他に飼料として栽培される。特にアフリカにおいてはトウモロコシと並んで最重要の穀物である。

補足説明4(硫酸基転移酵素):3′-phosphoadenosine-5′-phosphosulfateの硫酸基を基質の水酸基やアミノ基に転移させる反応を触媒する。植物ホルモンの中では、ブラシノステロイドやジャスモン酸などが硫酸基を付加されて不活性化する反応が知られている。LGS1酵素のように硫酸エステル化を水酸基の脱離として利用する反応は、動物においてカロテノイド誘導体のビタミンA(retinol)からanhydroretinolへの反応が知られている。

補足説明5(これまでの関連成果):
Yoneyama K., Mori N., Stao T., Yoda A., Xie X., Okamoto M., Iwanaga M., Ohnishi T., Nishiwaki H., Asami T., Yokota T., Akiyama K., Yoneyama K., Nomura T. Conversion of carlactone to carlactonoic acid is a conserved function of MAX1 homologs in strigolactone biosynthesis. New Phytologist, 218: 1522-1533 (2018) 
https://doi.org/10.1111/nph.15055
Abe S., Sado A., Tanaka K., Kisugi T., Asami K., Ota S., Kim H.I., Yoneyama K., Xie X., Ohnishi T.,
Seto Y., Yamaguchi S., Akiyama K., Yoneyama K., Nomura T. Carlactone is converted to
carlactonoic acid by MAX1 in Arabidopsis and its methyl ester can directly interact with AtD14
in vitro. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111: 18084-18089 (2014)
https://doi.org/10.1073/pnas.1410801111

補⾜説明6(シトクロムP450 酵素)︓酸素とNADPH などの電⼦供与体を使って基質を酸化す
る酵素である。⼀部の細菌を除くほとんどの⽣物がもっている。ヒトは57 個のP450 遺伝⼦を
持っており、ステロイドホルモンの合成や異物代謝を⾏っている。植物では様々な⼆次代謝物の
⽣合成の酸化段階がP450 酵素により触媒されており、多くのP450 遺伝⼦が存在している(ソ
ルガムには約400 個)。

補⾜説明7(β-グルクロニダーゼ, GUS)︓D-グルクロン酸の抱合体のグルクロニド結合を加⽔
分解する酵素である。植物にはこの酵素の活性はほとんど認められないので、遺伝⼦のプロモー
ターに繋いで植物に導⼊し、発現組織を観察するためのレポーター遺伝⼦として利⽤されている。
これまでにGUS を⼤腸菌発現の可溶化タグとして使⽤した例は無かった。

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