宮川美里博士と宮川一志准教授が新天地への侵入成功の鍵となる性決定システムをアリで解明

投稿者: | 2018年2月21日

宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センターの宮川美里(みやかわみさと)博士(日本学術振興会特別研究員(PD))と宮川一志(みやかわひとし)准教授は、近年問題となっているアリ類の新天地への侵入成功の鍵に、 doublesexと呼ばれる遺伝子が関与していることを発見しました。本研究は、岐阜大学との共同で実施され、2018年1月31日付の英科学誌「Insect Biochemistry and Molecular Biology」に掲載されました。

現在日本では海外から侵入したヒアリの問題が深刻ですが、日本から外国に侵入しているアリ類も存在します。中でも日本から米国に侵入したウメマツアリの集団は、たった1組の雌雄から始まり、非常に“血の濃い”集団を維持しています。アリでは通常、性別を決める働きをする遺伝子が一つ存在しますが、その遺伝子の性質上、近親者間で交尾が起こると子供の雄と雌の比率を正しくコントロールできなくなります。その結果、雌である働きアリを効率的に産生できず、集団がすぐに弱体化してしまいます。しかし彼らは性別を決める遺伝子を複数持つことで“血の濃い”集団の弱体化を防いでいることが示唆されていました。

ところが、性別を決める遺伝子がいくつもあると、雌にしようとする遺伝子と、雄にしようとする遺伝子の働きが拮抗して次の世代をうまく作ることができません。今回、宮川研究員と宮川准教授は、doublesexと呼ばれる遺伝子が、ウメマツアリの性別を決める複数の遺伝子の働きを統合し、雌になるか雄になるかを振り分ける役割を持つことをつきとめました。この遺伝子の仲間は昆虫や人間など幅広い生き物で存在します。したがって、最近問題になっている外来アリやハチでも、同様の遺伝子の働きが侵入成功に関与している可能性があります。今回の研究のように、少ない数でも新しい生息地で生きていけるように進化した生物のメカニズムの解明は、将来、外来種の管理施策に役立つことが期待されます。

【論文】

MO Miyakawa, K Tsuchida, H Miyakawa, “The doublesex gene integrates multi-locus complementary sex determination signals in the Japanese ant, Vollenhovia emeryi” Insect Biochemistry and Molecular Biology.
https://doi.org/10.1016/j.ibmb.2018.01.006

 

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