野生イチゴの自生地における分布調査
野生イチゴに蓄積された遺伝的変異の中でも栽培化に有用な変異を明らかにするため、まずは野外のどこに、どのような変異や表現型を持つ野生種が存在するのかを調べています。本プロジェクトでは、北海道から九州まで、日長や気候などの環境条件の異なる地域で採取した野生種を解析の対象とします。
遺伝的多様性の豊富な野生種イチゴ
南北に長い日本列島各地から採取した野生種イチゴは、同種でも形質が大きく異なります。例えば写真はノウゴウイチゴ(F. iinumae)ですが、地上部が枯れている休眠中の個体は北海道(中山峠)系統、右が鳥取県の伯耆大山系統であり、系統間で休眠特性が異なります。両者の遺伝子発現を比較すれば、休眠に関わる遺伝的要因の解明に近づくことができます。
休眠特性の他にも、開花やランナー苗の発生、環境ストレス耐性など、育種で重要な生理現象を遺伝子レベル解明するには、遺伝的なバリエーションのある研究材料の入手が必須です。南北で環境が大きく異なる日本は、野生種イチゴにおいて豊富な遺伝資源が期待できる国といえるでしょう。
近年の研究では、エゾヘビイチゴ(F. vesca)に見られる環境依存的な表現型の違いがDNAのメチル化レベルの違いに起因することも報告されています(López et al 2022 Hortic Res)1。
野生イチゴのサンプリングには登山が必要
本州では、オランダイチゴ(Fragaria)属の野生種イチゴは標高1000-1300m以上でないと暑くて生育できないため、見つけるには登山が必要です2。日本海側の山地にはノウゴウイチゴ(F. iinumae)、それ以外の似た気候の太平洋側はシロバナのヘビイチゴ(F. nipponica)か、いわゆるヘビイチゴと呼ばれるキジムシロ(Potentilla)属が自生し,ニッチの奪い合いになっています。
開花していない野生種イチゴの種同定には経験を必要とします。一見するとオランダイチゴ属に見える個体がキジムシロ属ということも。
イチゴのナショナルバイオリソースプロジェクト拠点化を目指して
宇都宮大学では、日本各地で採取した野生イチゴの系統を維持しています。宇都宮大学は今後、様々なイチゴの野生種や突然変異系統を提供するNBRP(ナショナルバイオリソースプロジェクト)拠点機関となることを目指しています。系統に関するお問い合わせもお待ちしております。