米山弘一バイオサイエンス教育研究センター 名誉教授が2019年度日本農学賞を受賞

投稿者: | 2019年2月17日

当センターの米山弘一名誉教授が「根寄生雑草種子の発芽刺激物質ストリゴラクトンに関する研究」で日本農学賞(日本農学会)を受賞しました。『日本農学会』は、農学に関する専門学協会の連合協力により、農学およびその技術の進歩発達に貢献し、総合統一された農学の発展を目指す連合体として昭和4年(1929)に設立され、現在、50余りの学協会が所属しています。昭和5年(1930)から日本農学賞が授与されており、日本の農学関係の賞としては最も伝統と権威のある賞です。当センターでは平成27年度の矢ヶ崎一三特任教授が受賞して以来となります。

 平成31年4月5日(金)の日本農学大会において、授賞式および受賞者講演会が開催されます。

2019年度日本農学賞受賞者


【研究概要】題目:根寄生雑草種子の発芽刺激物質ストリゴラクトンに関する研究

 ハマウツボ科のストライガ属とオロバンキ属は、前者はサハラ砂漠以南のアフリカ諸国で、後者は地中海沿岸諸国を中心に世界各地の農業生産に甚大な被害を与えている根寄生雑草である。根寄生雑草の種子は、発芽に際して特殊な要求性を示し、適当な水分、温度条件に保たれただけでは発芽せず、植物の根から分泌される化学物質(発芽刺激物質)を感受した時にだけ発芽する。代表的な発芽刺激物質がストリゴラクトン(SL)である。米山名誉教授は、SLの単離・構造決定研究に先導的な役割を果たすと共に、SLの生合成経路や生理機能などに関する優れた研究成果を挙げてきた。

 (1) 新規SLの単離・構造決定

 天然生理活性物質の単離には、高感度で特異性の高い生理活性検定法と、高感度で特異的な化学分析法が必須である。根寄生雑草種子を用いた発芽試験は極めて高感度で特異性が高く、SLは1012 M(pM)以下の濃度で種子発芽を誘導する。しかし、発芽試験に匹敵する感度を有する化学分析法は確立されていなかった。米山名誉教授は、1990年代後半から微量成分分析に利用されるようになり、現在では農薬の残留分析やドーピング検査に不可欠である高速液体クロマトグラフ−タンデム型質量分析計(LC-MS/MS)をSL分析に初めて導入し、SLの高感度で特異的な分析法を確立した。現在までに約30種類のSLが単離・構造決定されているが、その約8割が米山名誉教授らのグループによる研究成果である。

(2) SLの生産・分泌への植物栄養素の影響

 根寄生雑草が土壌栄養分の乏しい地域に多発すること、肥料特にリン肥料の投与によって根寄生雑草の被害が低減されることなどから、植物栄養素がSLの生産・分泌に影響する可能性が示唆されていた。米山名誉教授らは、SL生産・分泌に及ぼす植物栄養素の影響を詳細に解析した。その結果、植物はリン欠乏によって、SLの生産・分泌が顕著に促進されることを初めて明確に示した。ほぼ同時期に、SLが植物のリン吸収を助けるアーバスキュラー菌根菌(AM菌)の共生シグナルであることが明らかにされ、植物は、リン欠乏条件下でAM菌を呼び寄せるためにSL生産・分泌を促進することが分かった。

(3) 地上部枝分かれを抑制する植物ホルモンとしてのSLの再発見

 イネなどの枝分かれ(分げつ)過剰変異体の原因遺伝子の解析などから、主に根で生産され、地上部および脇芽に移動して枝分かれを抑制する植物ホルモンの存在が示唆されていた。米山名誉教授らは、この植物ホルモンがSLであることを明らかにした。その後、SLは側根伸長、二次成長、葉の老化などの制御や、生物的・非生物的ストレス耐性にも関わることが示された。米山名誉教授らは、SL生合成阻害剤あるいはSL機能制御剤を農業資材として利用することにより、AM菌の共生最適化を介した作物生産性向上、生物的・非生物的ストレス耐性の付与に関する研究を発展させると共に、根寄生雑草の新しい制御法開発を進めた。

[本件に関する問い合わせ先]
国立大学法人宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センター
担当:大野
TEL:028-649-5527 FAX:028-649-8651 E-mail:c-bio@cc.utsunomiya-u.ac.jp