大学院生の田中雄大さんと宮川一志准教授が内分泌かく乱物質を迅速に検出する手法の開発に成功

投稿者: | 2018年9月11日

宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センターの環境生理学研究室(宮川研究室)に所属する大学院生の田中雄大(たなかたかひろ)さんとバイオサイエンス教育研究センターの専任教員である宮川一志(みやかわひとし)准教授は、節足動物に対する内分泌かく乱物質の一種である幼若ホルモンを迅速に検出する新しい手法を開発しました。本研究は、横浜市立大学との共同で実施され、2018年9月11日付の英科学誌「Journal of Applied Toxicology」に掲載されました。

河川や湖沼をめぐる水は、我々人間の生活とともに排出される化学物質による汚染の危機に面しています。排出された化学物質は、そこに生息する生物に取り込まれた際に体内のシステムに悪影響をおよぼし生存を脅かす内分泌かく乱物質(いわゆる「環境ホルモン」)として働く可能性があるため、汚染状況の把握とその改善は国際的な問題となっています。

幼若ホルモンは、元々は昆虫などの体内で働くホルモン物質であり、外部から投与することで害虫の生育を阻害し駆除できることから殺虫剤の成分として現在使用されています。ところが、近年幼若ホルモンがミジンコの性をかく乱し、オスしか生まれてこなくしてしまう作用を持つことが明らかになりました。ミジンコは湖沼の食物連鎖の中核を担う、生態系の維持に不可欠な生物です。このような駆除対象である害虫以外への生物への影響を抑えるためには、化学物質の持つ内分泌かく乱作用を迅速・正確に検出し、過剰に使用されないようにモニタリングすることが重要となります。

今回田中さんと宮川准教授はミジンコの体内で幼若ホルモンを受け取るために使われる遺伝子(幼若ホルモン受容体遺伝子)を哺乳類の細胞に導入することで、細胞培養液中に存在する幼若ホルモンを短時間で高感度に検出する手法の確立に成功しました。本手法は生物試験と比較して簡便で低コストであるため様々な研究機関や事業所で実施可能であり、過剰な幼若ホルモンの使用を抑制することで生物多様性の維持に貢献できると期待されます。

【論文】T Tanaka, T Iguchi, H Miyakawa, “Establishment of a high-sensitivity reporter system in mammalian cells for detecting juvenoids using juvenile hormone receptors of Daphnia pulex” Journal of Applied Toxicology. https://doi.org/10.1002/jat.3713

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